メリーのお部屋
□テニスマネジメント奮闘記より一部抜粋
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「もし俺が負けたら俺は坊主になろう。だが、俺が勝ったらお前は俺の言う事を何でも聞く。それでいいか?」
「構いませんよ」
春子は迷わず答えた。
「えらく自信あり気だな。負けたらどうなるとか考えない訳?」
「……あまりウチの部活をなめないで下さい」
春子はそう言うと、くるりと背を向けた。
稲ノ原高校が、樫井が負ける訳ないと思っていた。
* *
「ウソだ……」
春子は呆然と呟いた。
樫井が負けた。
3ー0のストレート負けで。
稲ノ原高校は決して弱いチームではない。
むしろ、何回もインターハイに行っている強豪校で、樫井はそこの部長だ。
だから春子は負けるはずないと信じていた。
だが、現実では進藤が樫井を圧倒していた。
春子は目を疑った。
「負けちゃったよ」
樫井が苦笑いをしながら戻ってきた。
「……先輩が負けるなんて……」
信じられませんと春子は続ける事ができなかった。
一番信じられないのは樫井自身だろうと思ったからだ。
「………1セットは取れるかと思っていたんだけど甘かったね。そもそも打ち返すことができなかった」
「!打ち返せない?樫井先輩が?どうしてですか?」
春子は驚いて尋ねた。
「ラケットの真ん中で打っているからだよ。普通、角度や体勢が変わるとどうしても真ん中からずれてしまうけど、進藤はずれないんだ。真ん中っていうのは一番重い球を打つことができるからね。だから返せないんだよ。まぁ、簡単に言ってみたけれど実際はプロでもできる人はなかなかいないからね……それを高校生でやってのけるなんて」
対したもんだ、と樫井は首をふりながら言う。
春子はなめていたのは自分なのだということを痛感した。
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