みかんの樹-wake up of Angel-
□第3章
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珍しく、ル―クだけが家にいる時に来客があった。
放課後、ル―クはフラクタルと一緒に帰り家でひとりぼっちの寂しい男となった。
両親ともども仕事で家に帰るのは8時過ぎである。
両親の帰りなど期待できない6時に、家の呼び鈴が鳴った。
ル―クは誰も家に呼んではいなかった。
「……奏路か……?」
思いつく人などそれだけしかいない。
奏路が中学の頃知ってしまった、その残酷な現実。
奏路はどんな思いで菜子に別れを告げたのか……そして、どうして今まで側に居続けたのかをル―クは知ってしまった。
愛しているからこその別れ。
愛する者を護る為の別れ。
恋人でなければ、菜子は奏路の行動に一喜一憂する頻度も低下するはず。
そうしたら……もしかしたら菜子の中にいる『天使』の頂点の力もあまり表にでないだろうと。
「……奏路は強いよ」
ル―クはひとりつぶやく。
そう心に決めて、なかなか実行できる人はいない。
ル―クは菜子と奏路に想いを馳せながら、家のドアを開けた。
「……」
ル―クは固まった。
「……」
目の前にいる人のことを、ル―クは知らなかった。
ル―クの目の前には、派手な格好をした女が立っていた。
まず目に飛び込んでくるのは、肩の上でざっくばらんに切り刻まれ色の抜けた茶髪。
そして派手に露出したシャツにこれまた大きなジッパーのスリットが入ったジーンズのミニスカートを穿き、靴は未だかつてル―クが見たことのない高さのヒールのゴツいサンダルを履いていた。
「……ど……どちら様ですか……?」
ル―クはおそるおそる訊いてみる。
女はアイラインとマスカラで十分強調した目でぱちりとまばたきをして、派手な格好にそぐわない柔らかい薄桃色のリップグロスを惜しげもなく塗った唇を開いた。
「我の名はリリィ。
魔術都市スパルキアに住む『天使』じゃ」
「──」
ル―クは女の意外と古風な言葉に驚くことはできなかった。
ただ『天使』という単語に恐れを抱いた。
「……単なる大魔導士じゃ……
あんたのような召喚大魔導士をどうこうするほどの力はないぞい」
リリィという名の女はニヤリと笑った。
「……とりあえず上がってください」
ル―クは家にリリィをあげる。
「……なぜ俺の家に来たんですか」
ル―クはリリィを畳に座らせて、冷たい麦茶を淹れてリリィに渡しながらリリィに問う。
「……」
リリィは麦茶を一口飲んで言った。
「……フラクタル王女を探してるのじゃ」