other

□二兎(バニー)を追うものはハニーをも得ず
1ページ/1ページ

・がっかりレベルのCP表現
・スティナツ、ナツログ、スティログ
・スティログベース
・OKな方のみ…
・「虫かお前は」と言わせたかっただけ(外伝参照)











今日はナツが久しぶりにギルドに来ている。剣咬の虎は昼時を過ぎ、仕事などで遅い昼飯をとる者やティータイムにしている者がちらほらといた。
スティングは先ほどからナツの隣に座ってナツの話を聞いている。といっても、ナツはそうペラペラと長い話をするタイプではないので、スティングが質問したことに答える形になっていた。
「ナツさんって一生懸命話すよね」
「あー?そうか?」
ナツは例によってここでもギルドの食料を片っ端から貪っていた。次々と料理がナツの腹に収められていくのを見ているとなんだか自分も美味しそうだと思ってしまって、同じものを注文して食べている。
ちなみに、昼食はもうとったのだが。
「ナツさんって余計なこと言わないよね。ひとことひとことにナツさんの考えたこととか気持ちが入ってるから聞いてて楽しい」
そうにこりと笑うとなぜかナツは顔をしかめた。
「お前に言われるとなんか気持ちワリィな」
「えっ?それどういうこと!?」
「そうやってナンパとかすんだろ」
「俺そんなヒマないよ。あ、もしかして妬いた?」
「んなわけねぇだろ」
ナツに軽くあしらわれた。なんというか、ナツはいつでも正直なのでどういう反応をされてもそこに悪意がなくて、思っていることそのままなのだろうと考えると、そんな人間も稀有なのに気がつく。
特にスティングの周りには考えていることを殆ど口にしない奴や、遠慮してしまいやんわりとしか言えない者、何を考えているかわからない腹の底の見えない奴、などなど、素直とは程遠い連中ばかりだ。
「あー、思ったことがそのまんま口に出るタイプってなかなかいないから新鮮だわ」
「なんだそれ悪口かよ」
「違うよ、褒めてんの。うちのギルドはそういうタイプあんまいないし?」
「そーなのか?」
口をもぐもぐさせるナツに同意の意味でまたにこりと笑いかけると再度顔をしかめられた。
「やっぱお前キメェわ」
「えー、だからなんでー」
「オレの周りにもお前みたいなタイプいねぇんだよ。なんつーか、えーっと、なんてんだ?ロキみたいな」
「ロキ…ってああ星霊の?あの人昔ソーサラーとかに載ってたよね。今見ないけど…彼氏にしたい魔導士上位ランカーだったような」
「ロキに似てる。笑い方が。ロキが女口説く時の顔」
「ナンパってことでしょそれ。だから俺そんなヒマないってば」
「ちげぇよ。なんかそういう顔をオレに向けんなって話」
「俺は別にナツさんをナンパしてるつもりじゃないけど?」
「じゃあ普段からそんなんかよ」
「うーん…そうでもないかな?別にやたら笑ってるわけじゃないし。ただナツさん、素直で可愛いからこっちもニコニコしちゃうんだよ」
「キメェ」
「ドイヒー」
「古ィ」
別にナツだけを特別扱いしているつもりはなかった。ただこのスティングよりもひとまわり、いや、ふたまわりほど小さくて、どこか子供っぽさの残る甘い輪郭の小さな顔、桜色の髪が目立つほかはごく普通の少年とも思えるような彼が、世界にとって稀有で失いがたい存在であることが不思議であり奇跡のように思われた。
彼が背負ってきたのはどれほどのものなのだろう。ナツが戦い、失い、得てきたものの大きさを考えると、目の前のこじんまりとしたよく食べる、実に正直でシンプルな少年は本当にあの憧れたサラマンダーなのだろうかと目を白黒させたい気分だ。
確かにナツは戦っている時その小柄な体格に反して、とてつもなく大きく、力強い。
スティングにはナツに何か秘密があるのではないかと思った。彼さえ知らない、彼が彼たる所以に。
「つーかローグ、本当にまだ寝てんのか?もう昼過ぎだぞ。」
「うん。いつも4時くらいに寝るからね。あいつ人のことはギャーギャー言っといて自分は完全に夜行性なんだよ」
「ぷっ…夜行性って」
ナツが噴き出した。
「だってそうでしょ?夜型っていうより夜行性。夜になるにつれ目が覚めてギラギラになんの。で、昼の一番日が高い時間にねむくなる」
「そんなんで仕事とか出れんのかよ?」
「まーだいたいね。昼間はあくびしながら仕事してるよ。つか列車とか酔う前に熟睡してて正直羨ましいね」

そう噂をしているうちにスティングのよく知った匂いがふわりとギルドの入り口から漂ってきた。
「噂をすればなんとやらだな」
「おーローグ、おそよう」
ナツがまだこちらに向かってくる途中のローグに手を上げた。
「…ナツ…なんでここに?」
まだ幾分か眠そうなローグはフロッシュを抱っこしたまま事態が把握できずにいる。
「じっちゃんの遣い。手紙持ってきたんだよ」
「そうか…」
そう言ってローグはむぐむぐと口の中で何かを呟くとスティングの隣に腰掛けた。
「ねふほうはは」
ナツがホットドッグを頬張りながら言った。眠そうだな、と声をかけたらしい。
「ああ…今日は早く目が覚めたから眠たい…」
フロッシュは、ハッピーはー?とナツに尋ねて、レクターと何やら話しているという情報を得るとそちらへ飛んでいってしまった。
「早くって、もう3時だぞ」
ホットドッグを咀嚼したらしいナツが言う。
「まだ日が高い…明るいからねむい…」
「ね。夜行性って言ったでしょ」
「割とマジだな」
ローグはなんとかおさまりをつけたのだろう長めの黒髪を少しかき分けてぼーっとした顔でスティングの手元を見やった。
「お前まだ何も食ってないんだろ」
スティングがそう言うとローグはこくりと頷いた。
「なんか頼めば?」
「…。」
スティングがそう言うもローグは頷いただけでまだぼーっとしている。
「いやうんじゃなくてさ。早くお前が目覚ましてくんないと仕事が進まないんだって」
「…だったら喋ってないで仕事したらどうだ」
「そこだけ返事すんなよ!」

ローグはまた口の中で何かをむぐむぐと呟くと近くに来ていたギルドのウェイトレスを呼び止めて何やら注文をした。
「ねむいねむいってお前昨日…じゃねえな、今日何時に寝たの?」
「…3時。」
「12時間くらい寝てんじゃねえか!」
ナツがすかさずつっこむと、ローグが目をこすりながら眠そうな声で答える。
「少し暴れすぎてな…魔力の回復に時間がかかった」
「こいつ食わねえ代わりに寝て育つタイプだからさ」
「へー」
スティングの知るところでは滅竜魔導士は体力や魔力の回復のために普通の人より沢山食べる。自分もその例に外れてはいなかったが、ローグはせいぜい大人一人前くらいしか食べないのだ。その代わり信じられないほどよく寝る。
「まあガジルさんがナツさんほど食べないけどよく寝てるのと一緒じゃないかな」
「…ねむい」
ローグは運ばれてきたパンケーキにシロップをかけると行儀良くナイフとフォークを使って食べ始めた。
目が閉じかけている。心なしか手元が危うげだ。
「お前食うか寝るかどっちかにしたら?」
「…食べたら目がさめる気がする」
「…気がするって…」

ローグが咀嚼し、船を漕ぎ、また咀嚼する間にスティングは頼んだホットドッグ3つをぺろりと平らげてナツの持ってきた手紙を開いた。
内容は至って普通の、ギルドマスター間の連絡だった。これのために郵便を使わずご足労頂いたナツには大変恐縮である。
「ナツさん、なんか他に用事は?」
「ん?ねえよ。」
「これだけ持ってきたの?」
うん、と頷くナツはローグの手元のパンケーキを見つめている。
「ほらローグ、早く食わねえとナツさんに取られるぞ」
「とらねぇよ!」


ローグがすっかり冷めたパンケーキを食べ終えた頃にはナツはようやく食事を終えてコーヒーを飲んでいた。
「ナツさんブラックなんだね」
「おう。なんか入れんのめんどくせーだろ」
「そうだね。俺もブラック。」
と言っている横でローグは目覚ましのコーヒーに角砂糖とミルクを足している。
「ナツさんってさ、いっつもごはんどうしてんの?三食ギルド?」
「んー、夕飯はたまにハッピーが作る」
「ハッピーが?」
甘くしたコーヒーを飲んでいたローグが食いついた。エクシードのことになると普段の3倍反応が早い。
「おう。オレ料理できねぇし」
「ハッピー…偉いな」
遠くのテーブルで何やら盛り上がっているエクシードたちを目を細めて見ているローグは若干目が覚めたらしい。
「お前はギルドなのか?」
「朝と昼はね。夜はローグが作ってくれる」
「お前料理できんのかよ!?」
ナツが目を丸くするとローグが失礼な、とでも言いたげな顔で頷いた。
「うまいよ。ギルドの飯より」
「へー!今度食いたい!」
ナツが食事の話になるとやたらと食いつくので、スティングは苦笑いした。
先ほどまで適当にスティングをあしらっていたのに、話題が変わるとキラキラした顔をしている。
「俺に作れと?」
「顔が怖ぇよ!」
ローグが般若の面の如く顔をしかめるとナツがふと首を傾げた。
「ん?」
「どうしたの?」
ナツは手元のコーヒーを置くとふんふんと鼻を動かした。鼻の向く先は…ローグ。
本人はコーヒーを飲んでいてナツの行動に気づいていない。
「なんか匂いする?」
「はちみつの匂いだ。」
ナツはテーブルの向かい側に身を乗り出してローグの顔に顔を近づけた。
「…ちょ、ナツさん!?」
ナツが予想外すぎる行動に出たのでスティングはがたりと音を立てて立ち上がった。
あろうことかナツはちょうどコーヒーをひとくち飲んで顔を上げたところのローグの唇をぺろりと舐めたのだ。
「…!?」
驚きでローグは固まっている。
「お、…ん?でもはちみつの味がしねぇ…」
「…な、ナツ…?」
ナツはむう、と不満そうな顔になって腰を下ろした。
ローグはまだ言葉が出ないで目をぱちくりさせている。目はすっかり覚めたようだ。
「ナツさん…え、今何を…?」
「ローグからはちみつの匂いがしたから」
「で、なぜ唇を…?」
「唇からはちみつの匂いがしたから」
「…じゃなくて!」
当のローグはされたことがよっぽどショックだったのか、それともまだ自体が飲み込めないのか呆然としている。
「いやいや普通舐める!?」
「美味そうな匂いだったからよ」
「だからって舐める!?」
スティングはナツに食ってかかった。いや、正直どうしていいかわからない。目の前で憧れの人が可愛い(?)恋人の唇をぺろりと舐めたのだが、これは怒るべきなのだろうか。それにしても怒りの感情というよりはむしろ花畑のような光景が広がって…いやいやしかしローグは自分の恋人である。
…などとスティングがリアクションに困っている間にローグはいつもの無表情に戻ってひとつため息をついた。
「…虫かお前は」
「なあ、なんではちみつの匂いすんだ?」
スティングはまだ反応に困って、ツッコミを入れようと上げた右手を行き場なく宙に彷徨わせていた。
「はちみつの入ったグロスだ」
「グロ…え?」
「唇が乾いてヒビ割れて血が出るとぼやいていたらお嬢がくれた。リップクリームみたいなものだ」
「へーえ。じゃあはちみつじゃねぇのか」
「ああ。」
スティングがひどく動揺している前でナツとローグはいたって普通の会話を繰り広げている。
「いや!おかしいぞ!ローグ!ナツさん!だからって舐めることはないでしょ!?」
「はちみつの匂いがしたら舐めるだろ」
「お前はいつか拾い食いで腹を壊すな」
「拾い食いなんてしねーよ!」
「もうしたようなものじゃないか」
なぜ自分の唇を舐めたのを拾い食い程度にしてしまうのかは謎だが、スティングは非常に反応に困っているのであった。
「ナツさん…ローグ俺のだからさ、返してよ」
そう言って何を血迷ったかナツの唇をぺろりと舐めた。とりあえずこれで先ほどの分は取り返せただろう、と混乱しているスティングは満足げに笑った。
「…何すんだよ!」
「…スティング…お前…」
不敵な笑みを浮かべて笑うスティングが振り返るとそこには不動明王の如く顔を怒らしたローグが。
「え…?」
「お前は…!もう知らん!!」
バチーン、と高らかな音を響かせてローグの平手がスティングの左頬にヒットするとともにスティングは体勢を崩し椅子に尻餅をついた。
「…仕事は1人でやれ!!」
ローグはコーヒーを置いたまま、頭から湯気をぷす、ぷす、と沸き立たせてその場を去って行ってしまった。
「あーあ、ローグ怒ったぞ」
「ナツさんの所為でね!」
「はァ?どう考えてもお前の所為だろ!」
「いやナツさんの所為だね!」
「お前!」


…と、この出来事を離れたところのテーブルから見ていたハッピーはつぶやいた。
「でぇきてぇる」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ