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□白い子犬と黒い子猫
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✳︎


マグノリアの入り口で、仮面をつけた羽帽子の男と、青い花の髪飾りをした女の子が両手に猫を抱いて立っていた。
「この貼り紙は…」
「やはりそうなのでしょうか…」
「妖精の尻尾に言って聞いてみるしかありませんね」
「フローもそーもう」


✳︎


「やあ、グレイ」
「ん?お前は…」
ルーファスはギルドの入り口近くに立っていたグレイに声をかけた。グレイはルーファスの顔を見るなり眉をひそめる。
「そう嫌そうな顔をしないでくれたまえ。君に用事があって来ているわけではないからね。」
「じゃあなんだ」
「うちの双竜が仕事に出たまま帰ってこないんだ。何か手がかりがないかと思って」
ルーファスはマグノリアの入り口に貼られていた貼り紙をどこからともなく取り出す。
「双竜?知らねえな。そういうのならクソ炎に聞けばいいじゃないか。」
「確かに。スティングはナツによく懐いているからね。ああ、洒落じゃないよ。」
ルーファスは軽く手を振るとギルドの奥へと入っていた。
「…」
グレイはまだ顔をしかめている。

「ルーファス様、貼り紙の子犬様と子猫様なのですが…」
人だかりのできている方からユキノが呼ぶ。
「やはり、似ていると思います」
「どれどれ…」

「こら、サンダルがダメになっちまうだろ」
ナツの足元で遊んでいた子犬が拾い上げれる。どうやらサンダルを甘噛みして遊んでいたらしい。
「わんわん‼︎」
「ほう…」
ルーファスが目を細めた。
「あれ?ユキノ?」
「こんにちは、ルーシィ様」
「どうしたの?」
ユキノはエクシードたちを抱いたまま事の次第を話す。

「2日ほど前に、スティング様とローグ様が連れ立って少し難しい仕事に行かれたのです。丸一日はかかるが日帰りはできると話しておられたのですが、今日になっても戻られないのです…連絡もないので心配になって…」
「スティング君…無事だといいのですが」
「ローグもー…」
エクシードたちはそれぞれの滅竜魔導士の身を案じて不安げな表情をしている。


「それはそうと、その子犬たちはいつからここに?」
ルーファスがナツの膝の上ではしゃいでいる子犬を見て首をかしげた。
「今日の朝路地裏から飛び出してきたんだ。妙になついちまってよ」
ナツが子犬を抱き上げルーファスの鼻先に突き出すと、後ろでユキノに抱かれていたフロッシュが反応した。
「スティングー?」
「え?」

「にゃああ」
ガジルの手の中で遊んでいた子猫が急に耳をぴんと立てた。
「にゃあ」
「ローグー‼︎」
フロッシュがユキノの腕の中から飛びあがり、子猫のそばに降り立った。
「ローグかわいい〜」
「ええ?」
「フロッシュ様、なぜその猫様がローグ様だと?」
「ああ‼︎思い出したぜ‼︎そうだ、あいつらの匂いだよ」
ナツが一人で手のひらを叩いた。
「あいつらいつも一緒にいるからどっちかか片方の匂いがあんまわかんねんだよな…つかお前、なんで犬になってんだ?」
ナツとフロッシュは双竜がなぜか子犬と子猫の姿になっていることを信じて疑わないようだ。
「では私の予想は間違いないということだね。そちらの子犬がスティング、子猫がローグ。」
「え、でもどうして…」
確かにルーファスの理屈ではすべて合点がいくが、ナツ以外のメンバーは皆困惑ぎみだ。
「顔の傷がね。貼り紙の絵が実によく描けていたからわかったのだが…全体的な特徴が一致するだろう」
「確かに‼︎そういえばスティングはおでこに傷があったし、ローグもいつの間にか鼻に大っきな傷ができてたわよね」
ルーシィが思い出したように言う。
「相手にこういった魔法をかけて、無力な子供や動物にしてしまう魔法はよくあることだよ。」
「ではスティング様とローグ様はなんらかの魔法にかかっていると?」
「その通りだ。かかった経緯に関してなんとなく想像できるが…」

「猫たちはつれていかなかったのか?」
フロッシュと子猫が仲良く戯れている横でガジルがルーファスに問う。
「危なくなるからと私のところで預かっていたのです。ローグ様がフロッシュ様を心配しておいででした」
ユキノが代わりに答えた。
「さて、本人たちに話を聞いてみるとしようか」


✳︎


床に降ろされた子犬と子猫はぺちゃりと床板に座っている。
「まあ単純な構造の魔法だね」
ルーファスがメモリーメイクで逆向きの構造にしたという魔法をかけると、子犬と子猫は光に包まれた。
「まぶし…‼︎」
全員が眩しさに目を瞑った瞬間、光の形がみるみるうちに大きくなった。
それは人型へと変わる。

「あれ?」
床に尻もちをついた形で座っているスティングがそこにいた。
「スティング君ー‼︎」
レクターが真っ先に駆け寄る。
「レクター‼︎なんでここに? え?つかなんでナツさん?」
「ここは…?」
スティングとローグは事態が把握できずにぽかんとした顔をしている。
「お前ら、犬になってたんだよ」
「はあ!?」
「犬?え?」
「ライオスは猫だけどな」
「ら…いや、ローグだと何回言ったらわか」
「とりあえず戻ってよかったね」
「はあ…」



「じゃあ俺は子犬、ローグは子猫に魔法で変えられてたってことだな?」
「そうよ。これ、リーダスが描いたの。」
ルーシィが張り紙を差し出した。
リーダスが描いた子犬と子猫の張り紙は、ルーファスがマグノリアの入り口で剥がしてきたものだ。
「少しだが覚えている…俺が最後に見たのもこの子犬だった」
ローグが横からスティングの持っている張り紙を覗き込んだ。
「スティングの使う光と違うのが見えたから路地を抜けて走って行ったらそこにこの子犬がいた。術者が杖みたいなものをこちらに向けるのも」
「じゃあそいつがお前等に魔法をかけたってことか?」
「ああ。咆哮で倒したんだが、時間差で俺も食らってしまったらしい。そこから記憶がない」
ローグがフロッシュを抱き上げた。
「最後の一人だったから気が緩んだんだな。一応全員は倒したから依頼達成ではあるが…」
闇ギルドの残党を消す仕事だったらしい。
「そんなことだろうと思ったよ。君たちはどちらか片方のあとを追って結局2人とも同じ目にあうのがオチだから」
「確かに昔からそうですね…」
レクターが苦笑いをしている。
「無事に戻れて良かった…今回ばかりは拾ってくれたナツに感謝しなければな…」
ローグも苦い顔をしている。
「俺は何もしてねえよ?スティングがすげえ喜んであとついてきたからしゃあなしここで預かってたんだ」
「そうか…」
そう言ってローグはスティングの顔を見た。スティングはまだぽかんとした顔をしている。


「しかし自分がこれになっていたとは変な気分だな」
「うん…つか俺って犬なんだな…」
双竜はまだリーダスの描いた絵を挟んで妙にしんみりとしていた。
「スティングはあんま変わんなかったぜ」
ナツがからからと笑いながら言う。
「ええ?それどういうこと?」
「そのまんまだ‼︎ 」
「ローグのご飯とろうとしたりナツのサンダル噛んで遊んでたもんねー」
ハッピーが便乗する。
「いや俺普段から別にローグの飯とってないからね?」
「あとガジルにもやたら懐いてたな」
「え…それはちょっとショック」
「んだとてめえ」
ガジルがスティングの頭にげんこつを沈めた。
「ローグは警戒心強くて近寄ってこねえんだよなあ。ハッピーとかシャルルには懐いてたけど」
「あとガジルにもね‼︎」
「え…俺が…ガジルに?それはちょっと…」
ローグが不愉快そうな顔をした。
「てめえも失礼なこと言ってんじゃねえ」
ガジルがローグの頭にげんこつを沈めた。


✳︎


「じゃあまた来るぜ‼︎ナツさん‼︎」
「おう、いつでも喧嘩しに来いよ‼︎」
「喧嘩前提なの?」
スティングが散々構ってもらったというのにまだ物足りなそうに振り向く。
妖精の尻尾の喧騒に呆れたルーファスはさっさと先を行ってしまってもう背中が小さくなっていた。
「ローグもな‼︎」
ナツがにかっと笑いかける。
「……ああ…」
「おい何だその顔は‼︎」
「…」
ローグは疲れた顔でそっぽを向いた。
「もう当分はいいってさ。俺はまたすぐ来るけどね‼︎」
スティングが代弁する。
「お前は来んな」
「えーなんでガジルさん、ガジルさんだってかわいい弟分に会いたいでしょ?ほら、ローグはガジルさんになら会いにきてもいいって」
「言ってない」
「ライオスならいつでも来いよ」
「…まあ考えておく」
「なんだその顔は」
「もう疲れた…」


帰ろうとしている剣咬の虎一行とその見送りのナツとガジルを見ながらルーシィとハッピーが笑う。
「なんかあんま変わんないわね。」
「なにがー?」
「あの2人よ。子犬と子猫だった時と同じっていうか。」
「そうだね。」
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