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□白い子犬と黒い子猫
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賑やかないつものギルドにて。
ナツとルーシィとハッピーとミラジェーンは、カウンターの上に置いたかごを取り囲み、首を捻っていた。

「うーん」
「とりあえず飼い主さがすか?」
「そうね…飼ってた人がいるかもだし」
「リーダスに貼り紙描いてもらおうよ」
「わん‼︎」

取り囲まれたかごの中には一匹の白い子犬と、一匹の黒い子猫。
まだどちらも小さく、生まれてそんなに経っていないであろう赤ん坊だ。
子犬はかごのふちに前足をかけて尻尾を振っている。子猫は警戒しているのか、丸い瞳でこちらをじっと見つめ動こうとしない。

「わん‼︎」
「それにしても凄くなついてるわね」
「子犬のほうだけだけどね。しかもナツ限定」

子犬はくるりと丸まった尻尾をちぎれんばかりに振りながらナツの鼻先で愛想よくわんわんと吠える。
構ってほしいようで終始気を引こうと落ち着きがない。
白い毛はふさふさとしており、耳は立っているが端のほうだけが垂れた犬だ。
「お前、飯食うか?」
「わん‼︎」
まるで人の言葉を理解するかのように問いかけに答える子犬は、ナツに片手で拾い上げられても少しも怯えた様子がない。
「犬ってなに食うんだ?」
「とりあえず、残り物を薄い味付けで作ってみようかしら。」
「ミラが作ってくれんのか!?」
「ええ、昔エルフマンが捨て犬を拾ってきたことがあるからちょっとはわかるんだけど…子猫はどうしようかしら」

黒くてほっそりした子猫は、子犬同様ふさふさしていて毛並みもいいが、警戒心が強く、少しでも手を伸ばされると首を下げて体をこわばらせていた。
「子犬のほうはわかるけど、子猫はどうやって連れてきたの?」
「連れてきたっていうより、ついてきた、ね。」
ルーシィが事の顛末を話す。

「朝ここに来る途中で路地裏から子犬が飛び出してきたのよ。あたしの足にぶつかってこけたんだけど、ナツの顔見るなりものすごくなついちゃってね。子猫はそのあとを追いかけてきたからこの子たちは多分一緒に育てられてたんじゃないかって。」
「ナツの後を子犬がついてきて、子猫は子犬のあとをついてきたんだよ」
ハッピーが猫を覗き込みながら言う。
喋る猫と喋らない猫の対峙だ。
「それで一列に連なってきたのね」
ギルドに来た時にはナツを先頭にちょっとした隊列ができていた。

「この子たちは仲が良いのね。」
かごの中では子犬と子猫がじゃれていた。子猫も子犬に対しては全く警戒する様子がなく、飛びつかれてひっくり返ったまま肉球で子犬の顔を叩いている。
「兄弟ってことはないし、犬と猫が仲良くなるってことはやっぱり一緒に育てられてたのかなって。」
「でも路地裏から出てきたんだよな」
「不思議ね。首輪はしてないからやっぱり野良かな」
「うーん…」

話し込みながらも手際よく子犬にあげるごはんを用意したミラジェーンは、小皿をカウンターに置いてやる。
「子猫には、ベタだけどミルクかしら?飲んでくれるかわからないけど」
「人肌ぐらいにあっためた方がいいかもね」
「オイラは魚で‼︎」

子犬は差し出されたごはんを見事な食べっぷりで平らげた。空になった皿を名残惜しそうに舐めている。
一方子猫はミルクを飲みはするが、ちびちび、ちびちびといつまで経っても無くならない。
「あ、こら。人の飯取んなよ」
子猫のミルクの皿に顔を突っ込もうとした子犬をナツが掴みあげた。
「ちゃんと飲んでるみたいだし、とりあえずは安心だね。」
ハッピーが子猫のそばにしゃがみ込み、ミルクを飲む様子を見つめた。

「にゃあ」
「ん?」
「にゃあ」
「鳴いた‼︎」
ミルクを飲むのをやめてハッピーをじっと見つめる子猫は小さい声で二度鳴いた。
「ハッピーが気になるのかしら」
「猫として?」
「にゃお」
ハッピーに向ける目は興味のようだ。
「にゃー‼︎」
ハッピーが猫のまねをしてみせると、小猫はさらに興味を持ったのか、身を乗り出して匂いを嗅ぎはじめた。
「にゃあ」
「かわいい〜」
喋る猫が喋らない猫の頭を撫でた。
怖がる様子はない。
「なんか変な光景ね」
「そう?かわいいじゃない」



リーダスがキャンパスを広げ、子犬と小猫をスケッチしているのをナツとルーシィとハッピーが眺める。
「できれば飼い主さんが見つかるといいわね…」
「オイラは野良だと思うな」
「でもちゃんとシャンプーの匂いがするっつーか、野良の匂いじゃねえな、あれ」
「そうなの?」
ナツの鼻が言うのだから間違いない。
「うーん…なんか妙なんだよな…どっかで嗅いだことあるようなねーような…」
ナツは眉間にしわを寄せて首を捻った。
「知ってる匂いってことかな?」
「知ってるっつーか、人間用のシャンプーの匂いがすんだよ。2匹とも。直接洗われたっていうより人間と一緒にいたみてえな」
「え?」
なぜそんな大事なことを今まで言わなかったとルーシィが内心つっこみつつ質問を続ける。
「じゃあやっぱり飼われてたってことじゃない」
「かもなー」

2匹は遊び疲れて眠っていた。
かごの中で体を寄せ合い、丸まって寝息を立てている。
「そういえば、2匹とも顔に傷があるのよね」
ルーシィが思い出したかのように言った。
「子犬の方はおでこで、小猫は鼻の頭に」
白い子犬は右目の上あたりに切り傷のようなものがあった。一方小猫は鼻の頭をまたぐように右下がりに大きな傷があり、そこだけ毛がなく引き攣れたようになっている。
「あたしはそれで野良じゃないかなって思ったのよ。」
「顔の傷なんて人間の道具で遊んでてつくこともあんだろ」
「そうだけど…」

ルーシィは眠っている小猫の鼻の頭を見つめた。小さな体には不釣り合いなほどの大きな傷だった。
「まだあんなに小さいのに…」


✳︎


リーダスが描き終えた似顔絵を何枚か複製し、もたせてくれたのをギルドの入り口に貼る。
これから任務に出るというアルザックとビスカが街までの道に何枚か貼っていってくれるというのでお願いした。
「ふわふわで可愛い〜」
いつのまにかかごの周りには人だかりが出来ており、子犬や小猫を構いに来るメンバーが何人もいた。
「やっぱり飼われてたんじゃないかな。すごく愛想がいいし」
レビィが子犬を抱き上げて言った。
「大丈夫、こわくないですよ」
ウェンディがかごの後ろに隠れてしまった小猫をなだめている。
「少なくとも子犬は人慣れしてるわね。小猫の方は警戒心が強いみたいだけど」
「オイラにはなついてるよ」
シャルルの隣にハッピーが降り立つと、かごの後ろに隠れていた小猫が顔を出した。
「ほらね。おいで〜」
「にゃあ」
小猫はハッピーの方へ寄ってくると、隣にシャルルを見て首をかしげた。
「本当ね。珍しいこともあるんじゃない…って」
「にゃあ」
「やっぱり猫だからじゃない?あたしにもなついてるわよ」
「さすがシャルル‼︎」
エクシードだけになつく小猫は依然として他の人間には近寄ろうとしなかった。


✳︎


「ガジル‼︎」
レビィが仕事から帰ってきたガジルの姿を見つけ叫んだ。
「今戻ったぞ」
リリーがガジルの肩に乗りながら手をあげた。
「ん?今日はまた一段と騒がしいな」
「見てガジル‼︎ ナツたちが子犬と子猫拾ってきたの」
レビィがガジルに腕に抱いた子犬を見せると、子犬は鼻先をガジルに向けて匂いを嗅ぎはじめた。
「すんすん…なんかどっかで嗅いだことのあるような匂いだな」
ガジルも同じように子犬の匂いを嗅ぐ。
獣じみているという点で犬型でも人型でもあまり変わりがない1人と1匹は鼻先を付き合わせてお互いじっと見つめたまま動かない。
「それさっきもナツが言ってたよ」
「人間用のシャンプーの匂いと…かすかだが他に知ってる匂いが」
「わんわん‼︎」
子犬はレビィの腕の中で暴れるとガジルの顔を見て吠えた。
「あ、なんか喜んでる」
「尻尾振ってる‼︎」
「ナツにもすっごい懐いてたからもしかしてドラゴンスレイヤー限定?」
「わんわん‼︎」
レビィがガジルのほうに子犬を差し出すと、ガジルは面倒くさそうに子犬の頭をわしわしと撫でた。
「子猫はエクシードにしか懐かないのよ。ちょっと珍しいでしょ?ってあれ…?」
ルーシィが振り向くと先ほどまでかごの後ろで震えていた子猫が顔を出してじっとガジルの顔を見つめている。
「もしかしてガジルは平気…?」
「リリーは大丈夫だと思うよ。猫だし‼︎」
ハッピーが言う通り、リリーが子猫のそばに降り立っても全く怯える様子はない。
そして子猫は鼻先を宙に向けるとすんすん、と数回匂いを嗅ぐ様子を見せた。
「ガジル、その子撫でてみて。」
レビィが言うと、ガジルはぶっきらぼうに子猫の頭に手を置いた。
「別に怖がってないだろ」
少し驚いた様子は見せつつも、子猫は他の人間にほど露骨に怯えなかった。

「やっぱドラゴンスレイヤー限定?」
レビィの腕を離れ、ナツのあとを一生懸命追いかける小さな子犬は誰から見ても嬉しそうだ。
ガジルに撫でられる子猫は大人しく、時折小さな声でかすかににゃあと鳴く。

「んー?」
ハッピーが首をひねった。
「どうしたのよ?」
隣で紅茶を飲むシャルルが問う。
「なんかどこかで見たことある光景のような…」
「デジャヴってやつね」
「そうだけど…うーん」

「見てルーちゃん‼︎子猫がガジルにじゃれてる‼︎」
子猫はガジルの大きな手にじゃれついていた。といっても、子犬ほどはしゃいではいなかったが小さな肉球でガジルの手の甲にしがみついたり、軽く叩いたり、リラックスした様子だ。
「こいつ…誰かの匂い似てるな…かすかにしかわからねえが…」
一方ガジルは手を差し出したまま考えこんでいる。
「それ、さっきもナツが言ってたのよ。」
「ってことはナツもガジルも知ってる誰かが飼ってるってことかしら?」
「ギルドのメンバーの可能性が高くなってきたわね」

子犬を抱き上げたナツがカウンターへと戻ってきた。子猫の隣におろしてやると、ガジルの手にじゃれついていた子猫が振り向く。
「にゃあ」
子猫は子犬に毛づくろいを始めた。
子犬はされるがまま、大人しくカウンターに座り込んで目を細めている。
ゆったりとくつろいで心なしか嬉しそうだ。
「うーん?」
「まだ考え込んでるの、ハッピー」
「だって、オイラこれと似たようなのを前に見たことがある気がするんだ」
「ただの気のせいじゃない」
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