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「ミラジェーン、すまないが少しカウンターのキッチンをかりてもいいだろうか」
ローグはエクシードたちの皿を片付けているミラジェーンに声をかけた。
「いいけど…どうしたの?」
優しげだがつかめない笑顔を浮かべたミラジェーンに、理由を言うのを少し躊躇して壁にかけられた
日めくりのカレンダーを見る。
「このままだと帰ったら遅くなっているだろうからな。今日中に作っておきたいものがあって」
「あら、そうなの。材料は?ここにある分で作れるかしら」
「小麦粉とバター、砂糖…」
記憶している材料を挙げるが、一番重要な部分を口に出していいものか、と迷う。
「それと、チョコレート」
「それなら、ばっちり全部あるわよ。」
ミラジェーンはカウンターの下の棚をごそごそと探ると、それから顔を上げてぱちりとウインクをした。
良かった。どうやら気づかれていないらしい。
…と、安堵したのも束の間、へえ〜?と、隣から声がした。
いつの間にか空いた席に腰掛けているルーシィが意味ありげな顔でニヤニヤと笑っている。
「どうしたの、ルーシィ」
ミラジェーンが首をかしげると、ハッピーはカウンターテーブルのローグが肘をついていた近くに
やってきて、またルーシィと同じような顔をして口元を両手で押さえた。
「今日って、バレンタインでしょ?だからチョコレート?」
「うっ…」
「へえ、誰にあげるの?」
ミラジェーンは驚いた風もなく、笑顔のまま尋ねてくる。
「いや…その、れ、レクターとフロッシュにな…!作ってやろうと思って」
「わーい!」
「あやしい〜」
フロッシュは歓声を上げたが、ハッピーはローグの肘を肉球でつついてくる。
この可愛い生き物には何をされても怒る気が湧かないが、今は妙な鋭さに冷や汗をかかされるばかりだ。
「とにかく、厨房を借りるぞ」
*
「へー、意外。器用にやるのねー。うちじゃ料理できる男子はいないから、すっごく新鮮」
ルーシィがカウンターの向こう…先ほどまでローグが座っていた場所に腰掛けて興味津々に作業工程を
見学している。
「あら、料理ならエルフマンもできるわよ。」
「ああ、そうだったっけ。」
ミラジェーンはこちら側で、皿を拭いている。
「で、誰にあげるの?」
ハッピーは口元を両手で押さえてまだ先ほどと同じような顔をしている。それを見たルーシィが同じ質問を
重ねてきた。ハッピーはナツのエクシードだったはずだが、妙にこの二人、気が合っているような。
「だからレクターとフロッシュだ。お前も食べるか?」
「うん!じゃなくって…絶対他の人だよー、さっき何か隠してたもん」
「隠してないぞ?」
「うそだー!」
ぴょこぴょこと跳ねるハッピーの頭を、うそじゃない、と言いながら撫でていると、おやつを食べ終えた後
ナツ対スティングの観戦に行っていたレクターが戻ってきた。
「すみません、お水もらえますか?結構白熱してて、スティング君が水分補給だそうです」
「そうか、じゃあ冷たいのを用意してやらないとな」
「ありがとうございます、あれ、ローグ君は何を作ってるんですか?」
「ブラウニーだ。お前とフロッシュの分」
ミラジェーンに大きなグラスを用意してもらって水を入れていると、レクターがなるほど、と声をあげた。
「ああ、今日はバレンタインデーでしたっけ。毎年すみませんねえ…スティング君、何にも言わないけど
結構何日か前からそわそわしてますしああ見えて結構期待して…」
「レクター!!!」
悪気はないとわかっているのだが、レクターの発言で隣の一人と一匹は事態を察したらしく、一人は目を
ぱちくりさせ、一匹はまたニヤニヤした。
「うそ?え?双竜ってそういう」
「ルーシィ!違う。とりあえずでかい声を出してくれるな」
「すみません、僕誤解を生む発言を」
「いいんだ、レクター。悪いのは全部あいつだからな。」
水を手渡してやりながらため息をつく。
「そもそも勘違いしているのはスティングだ。」