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□マスターは白いモフモフなり
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僕はネコである。
名前はレクター。

正確に言うとエクシードだ。生まれた時から言葉を話し、翼を使って空を飛べる。人間の世界で不便なこともあるけれども、便利なこともある。
僕が困っているとき、いつも助けてくれる人がいる。大事な相棒であり、かつて師匠と慕った強い滅竜魔導士だ。
優しくて強くて、かっこいい。
その人の名前はスティング・ユークリフだ。名前の感じからもわかるように光や聖属性の魔法を使う。
おまけにイケメンだ。そして優しい。
僕が困っていたらどうにかして助けようとしてくれる。

けど、今は流石に助けてもらえそうにない。


…起きたらスティングが、犬になっていた。

「ど、どこから入ったんでしょう…それにスティングくんは…」
朝窓から光が差し込み、眩しさで目を開けた。スティングの枕元で寝ているレクターは、いつも目が覚めたほうがもう一方を起こすことにしている。
布団がもこっと盛り上がったまま動かないところを見ると今日は自分が先だったのだ、と思ってスティングの寝ているはずの布団をゆさゆさと揺らした。
「スティングくんー、朝ですよ、起きましょう」
返事はない。寝起きはいいたちなので、スティングは大体このくらいで目を覚ます。比べちゃ悪いが、双竜の片割れのローグとフロッシュは揃って寝起きがよろしくないのでこんなものでは起きてくれない。これに関してはスティングの方が手がかからず優秀だ。
布団の山はもそもそ、と動く。普段服を着ないで胸くらいまで布団をかぶって寝ていることが多いから、頭まで布団に潜っているのは珍しい。
しっかり閉まっていないカーテンの隙間から光が直接入るのが眩しかったのだろうか。

そんな想像はいっぺんに吹き飛んだ。
布団の端から顔を出したのは真っ白なモフモフだったからだ。

「スティングくん…?どこにいったんですか…???」
はじめレクターは、別の可能性を考えた。
例えば、スティングが早起きして出かけていき、何かの拍子に拾った犬を一旦家に置いてどこかに行ったのではないか、とかである。
しかしそれにしては部屋の様子が変わっていない。
洗面所も使った形跡がないし、スティングなら起きたらまずカーテンを開けてレクターを起こす。
そして何より、レクターが部屋の様子を調べている最中ずっと後ろを白い犬がついてくるのだ。
大きさは人間から見ると中型犬くらい。
だが毛がモフモフしていて、耳は垂れ耳、尻尾はくるんと丸まっているのか、お尻でフサフサとした毛が揺れている。
何より嬉しげにレクターの後を追うこの犬、ちょっと垂れ目ぎみで右の額に傷があるのだ。
なんだかちょっと前にも同じようなことがあったような。

「きみは…スティングくんですか…?」
恐る恐る尋ねると、その白い犬は耳をぴくりと動かし、しっぽを振ってからわん、と一言鳴いた。
「そ、そうですか…」

どうにか肉球でスティングの魔道通信機を操作すると、ローグを呼び出した。
この時間では起きていると考えづらいが、鳴らし続ければ出てくれるだろう。
『ん…な…んだ…う”……こんな時間から……』
声がガラガラで掠れて、半分寝ているような完全OFFのローグが出た。
「ローグくん、大変です、助けてください」
そう訴えかけると電話口で急にローグが覚醒した。
『レクターか?どうした?何かあったか?』
「そのー、僕も半信半疑ではあるんですが、起きたらスティングくんがそのー、犬になっていて」
『犬???』
「わん!」
電話口でレクターの横に大人しく座っていた犬が吠えた。
『は???』
『スティングー?』
向こうに起きたらしいフロッシュの声も聞こえる。
『にわかに信じがたいが…初めてではないからな、身支度したらそちらに向かうから少し待てるか』
「え、ええ」
ローグにしては寝起きからの初速が早い。これがスティングの頼みなら2、3時間は二度寝しそうな勢いであるがレクターの頼みは蔑ろにされたことがない。ローグもまたレクターには優しい。
『もしスティングなら、レクターの言うことは聞くだろうからいたずらしそうになったら容赦なく叱れ』
「ハ、ハイ」
スティングには優しくないようだ。




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