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□色に出づる 健全版
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俺は、大魔闘演武でナツさんに負けて、本当に大事なものが何なのかを知って、セイバートゥースのマスターになって、ギルドを変えたらしい。
らしい、と言うのはマスターの執務室の机に突っ伏して寝ていたところから記憶がはじまっているだけで、その前のみんなが言う「いつもの俺」の記憶はなくなっていたからだ。
そして俺の記憶はというと、カレンダーでいう1年半くらい前、大魔闘演武に出る少し前くらいからあやふやになっている。

確か道端で喧嘩をしていた時にナツさんに出会ったこと、そのあたりは覚えているがその辺から何だか思い出そうとすると頭が痛くなって結局思い出せないでいる。
マスターの部屋で寝てたなんてやばい、と思って飛び起きた時に、いけ好かないやつだと普段から思っていたルーファスが急に顔を出して、依頼書をひらりと見せると『この仕事に行ってくるからね』と行って去っていってしまった。
依頼書の内容は覚えていない。だって、普段からまともに顔を合わせて喋ったことのない奴がそんなことを言ってきたら普通はまずそいつの顔を見るだろ?なんて、皆が俺を責めるのに対して俺はひとり言い訳をしていた。
お嬢は化粧がちょっと薄くなっていて優しくなっているし、すぐにいなくなるだろうと思っていたユキノとかいう弱そうな女は俺のことを心配して見てくるし、俺のことなんかどうでも良さそう、というか俺もそいつのことをどうでもいい、と思っているオルガまで真剣な顔で見てくる。
俺にとっては周りがおかしいのに、ギルドのやつらはみんな俺を心配している。
俺の記憶がなくなっているということは理解した。
なんせカレンダーを見て唖然とするほど時が流れているので認めざるを得ない。
俺の記憶の一年と半年くらい先の年月日を示している。
ローグはというと、皆が代わる代わる俺を心配して顔を覗き込んでくる間ずっと、あれこれ思案してころころと表情を変えていた。
俺の見たことのないローグだと思った。
もちろん彼自身という人間は変わったわけではないのだが、考えていることを自分の中に押し込めるのをやめたような、何か彼の中で引っかかっていたよくわからないものが解けたような、そんな雰囲気で俺は少し困惑していた。
そして時折俺を見る目は、なんだかとても優しい。
…昔から優しい奴だとは思っていた。
でもそれは小さいものやか弱いものに向けられる慈しみのようなもので、それを俺に向けたことはなかった。
今はじめて見るローグのどこかふわりとした表情に俺は妙な落ち着かさなさを感じていた。







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