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□ひかり と かげ
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side:ローグ


明け方。まだ太陽が顔を出さないうちに目が覚めた。
布団の中がとてもあたたかい。
腹の上に何か乗っているらしく少し重たい。体の左半分が拘束されている。
いつもの匂いが体を包んでいた。

「スティングか」

結局ここで寝てしまったのだろう。
そういえば昨日キスをねだられてからの記憶が無い。
あわてて布団を持ち上げ、胸元を見たが少しはだけているだけで
着流しはきちんと着たままだった。
良かった。こいつは着流しをきちんと着させるだけの器用さはないから、
脱がされた可能性はない。
きっと言いつけをきちんと守って手は出さなかったのだろう。

「よく寝た」

もとより眠りが深い質ではないが、よく眠れたと思った。
影が眠った後に夢に忍び込み、俺を脅かすこともなかった。
手足が冷えて起きることもなかった。何だかあたたかい夢を見ていた気がする。
言うと調子に乗るので、スティングには絶対に告げないが
彼がこうして俺を抱きまくら代わりに寝る時、大抵よく眠れるのだ。
嫌な夢も見ないし、ずっとあたたかい体温に包まれて、とても静かに、
穏やかに眠れる。

「…。」

隣のスティングはすう、すう、と規則的な寝息をたてて
良く眠っていた。
こいつは明け方手足が冷えて起きたり、嫌な夢にうなされたりしないんだろう。
いつもよく寝ている。
羨ましいやつだ。
腹の上に置かれているスティングの腕をどかし、ごそ、と身じろぎして
枕元を見ると掛けてやった毛布をしっかり握りしめて
猫らしく丸くなっているフロッシュが見えた。
しっぽはぴったりと体に寄り添い、息をするたびに小さな背中が上下している。
隣の部屋でレクターも同じように眠っているだろう。
2匹が目を覚ました時に、いるはずのスティングがおらず、
そしていないはずのスティングがいるのを目にしたらどうなるだろうか。

「おい、スティング」

フロッシュは驚くだろうし、賢いレクターには悟られてしまうだろう。
今起こすのも少し躊躇われたが、早いところこいつを部屋に戻した方がいい。
別に、隠すようなやましいことがあったわけではないのだが…。

「スティング」
「ぐう」

明るくなったギルドでは、以前よりも気軽に、家であった出来事など
どうでもいいような、他愛もない会話を楽しめるようになっていた。
その代わり、レクターとフロッシュを通じていろんな出来事が暴かれてしまうという
事態が起こっていたりする。
この間も、決して悪気のない2匹が無邪気に家でのエピソードを話したせいで
オルガとルーファスに散々からかわれたのだ。
きっとギルドはおろか、ソーサラーや街の噂を通じていろんなところに
尾ひれつきで広まってしまうだろう。

「スティング、起きろ」

ゆさ、とスティングの体を押してみるが反応はない。
ただでさえ朝起こすのに時間がかかるのに今この時間帯に目覚めるはずがないのか。

「面倒だ…」

体格はさほど変わらないが、体重はスティングの方が重たい。
持ち上げて運んでも構わないが落とさない自信がない。
いや、別に落としても構わないか。
いっそレクターとフロッシュを入れ替えてしまえば…などと馬鹿らしいことを
考えてしまうが、意味など無いことくらいわかっている。

「はぁ…」

もういい。とりあえず顔を洗ってこよう。




結局顔を洗ったり着替えたりなんだりで、スティングをほったらかしに
していると、ベッドに俺がいないと気づいたフロッシュと、
同じくスティングがいないと気づいたレクターが起きてきてしまった。

「ローグー、ローグー」

てってっ、と幼い足取りで一生懸命俺の方へ走ってくるフロッシュを
抱き上げ、まだ眠そうに目をこすっているレクターは
ふよふよと浮きながらスティング君どこですか、と私室のテーブルに着地した。

「あれ、ローグ君のところで寝てたんですか」
「ああ。」

ここは口止めすべきか、せざるべきか。
このことは話すなよ、と言えば何かがあったことを肯定しているようなものだ。
別になにもなかったというのに…。
迷いながらも黙っているとフロッシュが俺の服をぎゅっと握りしめて
顔を埋めてきた。まだ眠いのだろう。
よしよしと頭を撫でてやる。

「フロッシュ、こっちの新しいのに着替えろ」
「はーい」
「レクターはもう起きるのか?」
「はい。寒くて目が覚めてしまいました。」
「確かに。もう冷える季節になってきたな。」

階下の暖炉に少し火をいれたほうがいいかもしれない。
一応と思って切ってきておいた薪が早速役に立ちそうだ。
暖房用ラクリマも便利だが、木が燃えるパチパチという音は、
聴覚的にも体を温かくしてくれる。

「さあ、こいつが起きてくる前にきのこをどうにかするか」
「楽しみです!」
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