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□ひかり と かげ
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夕方


side:スティング


風呂にも入り終えて、少々足の踏み場がなくなりつつある自室に
引っ込んだ。階下でうだうだしている間にレクターは寝てしまったようで
ベッドの枕元で静かな寝息を立てていた。
穏やかに眠る可愛い相棒の頭を起こさないようそっと撫でて、
それからむくりと持ち上がった出来心を携えて再び廊下へ出る。

隣にあるローグの自室の扉はしっかりと閉じられていた。
まあ、ローグの性格からして最後までドアを閉めずにほったらかしなんて
殆どないんだけどな。
音をたてないようにしてドアノブをそっと下げ、
扉をほんの少しだけ開けて片目で覗きこむと、部屋の明かりは消えていた。

月光が明るいおかげで、窓際に寄せられたベッドにローグがこちらへ背を向けて
横たわっているのが見える。
早寝早起きのローグは、もうご就寝のようだ。
すっかり眠っちまってると、起こすに起こせないな、と思いつつ
静かにドアを開けて中に入る。

「何の用だ」
「気づいてましたか」
「気配でわかる」
「ですよね」

フロッシュがローグの横で寝返りを打った。むにゃむにゃと可愛らしい声で
寝言を言っている。
ローグの布団に滑りこむようにして入ると、不満そうな声をあげてから
彼は軽く動いて場所を譲った。

「もう冷えてんな。手足。」
「夜は冷えるからな」
「寝れんのか?」
「しばらくすれば」

後ろからローグの体を抱きしめるとベッドのスプリングが微かにきしむ音がする。
揃えられた足に自分の足を絡ませ、指先を握って温める。
冷え症のローグは、そうしてやらないと眠れない。
月光に映える白いうなじに、黒髪がさらりと流れる。
目の前にあるそれに、向こうの部屋から持ち込んだ出来心は我慢できない。
予告なしにすっと舌を這わせると、抱き込んだ体がびくりと跳ねた。

「おい、」
「何?」
「何?じゃない。何をする。」
「何って、ナニ?」
「フロッシュがいるだろう」
「ぐっすり寝てるよ」

寝る時裸(上半身のみ)派の俺は、寝間着に着流しを着ているローグの
胸元を後ろから弄って、襟が合わさっている場所を掴んだ。
軽く引っ張れば簡単にはだける。
もとより、寝ている内にはだけてしまうようなものを着ていてどうすると
思うのだが。

「やめろ。俺はもう寝る」
「ちょっとくらいいいじゃん。」
「元気だな」
「年頃なんで。…っ、お前も、だろ」
「おい、や…めっ」

痕をのこすと後が怖いので、甘咬みのように軽く白い肌に吸い付きながら、
着流しをはだけさせていく。
大魔闘演武からまともに休んでいなかったのだ。
そろそろ溜まっている。疲れも、もう一つの方も。

「ローグ…な?じっとして…動くとフロッシュが起きる。」
「お前がしなければいいだろう…っ、あ」

早々に元気になっているそれをわざと押し当てるように
ローグの腰を引き寄せて、着流しの袖から潜り込ませた指で胸元を撫でる。
少し、筋肉が落ちた。「あれ」のせいだ。眠れていないから。
指先はわざと飾りの先を掠めながら動く。腕の中でローグが焦れているのがわかる。
耳元に唇を寄せ、舌で耳朶を舐ると、必死に声を堪える彼の
鼻にかかった吐息が漏れる。
本当は声を聞きたいけれども、フロッシュが起きてしまう。

「んんっ…」
「可愛い…」

ローグの髪からふわりとシャンプーの香りが漂う。
甘く爽やかで、清潔なせっけんの香り…どんな香水よりも心を
ざわつかせる。

「スティ…んぐっ、俺は疲れた…んっ、休ませろ…」
「何言ってんの、夜はこれからだぜ?」
「俺の一日は終わった」
「早いよ。じーさんみてぇ…ローグ、こっち向いて…」

ローグの頬を手で包み込むとこちら側へ向かせ、唇を捉える。
随分とご無沙汰だった。キスさえしていなかった。
柔らかな感触とローグの息遣いを味わいながら、頑なに唇を開こうとしない
彼をなだめるように舌先で催促する。

「なんで?」
「眠い。これ以上許したらお前は最後までしようとするだろう」
「そうだね。据え膳食わぬは男の恥って知ってる?」
「刺すぞ」

俺だってレクターやフロッシュがいるところでは遠慮している。
いくら仲間とて、これとそれとは別だ。
一緒に暮らしているし寝るときはそれぞれのベッドの枕元。
四六時中一緒にいるのでローグと二人きりの時間はあまりない。

「じゃ、キスだけ。ちゃんとさしてくれたら俺なにもしねえから」
「信用ならん」
「…お願い」
「本当に寝かせてくれるんだな」
「ああ」

ローグの瞼は少し重たくなっていた。
冷え症だが、体温の高い俺が隣に入ってきて温めているせいだろう。
黒い睫毛の先が震えている。眠たいんだな、と微笑ましくなる。
いつだってこいつは性欲より睡眠欲のほうが優っているらしく、
俺はその逆。すれ違ってばかりだ。
…あれ?こいつ昼も寝てなかったっけ?

「朝4時とかに起きるからだよ。ほんと、じーさんみてぇ」
「誰かさんが全く家事を…手伝わ…ない…から…だ…」
「おおっと、まだ寝んなよ。約束果たしてもらわねえと、俺寝ててもイタズラすんぞ」
「さっさと…しろ…」
「じゃあちゃんとこっち向いて。」

肩を揺すって催促すると、めんどくさそうにもぞもぞと動いた。
眠たいためか、少し一時停止してから再び動き出す。
もぞもぞ。止まって…ちょっと動いて…もぞもぞ。寝返りをうつのにとても
時間がかかる。
目はもう、閉じかけだ。瞼が重く、虚ろな目になっている。
ああ。眠たいローグも可愛い、可愛いんだけど…。

「ん…ふ」

やっとこっちを向いたと思ったら、ローグに深く口付けた。
もう抵抗する力も残っていないようで、されるがままにじっとしている。
半分意識が朦朧としているからか、声を抑えることもせず、
息をするたび、彼の甘い声が漏れて俺の下半身は反応せずにはいられない。

「ふ…あ、ん…」

これからだというのに、柔らかだが少しカサついた下唇を舐めると、
ローグはくすぐたそうにして、唇を離すとそのまま腕の中で力尽きてしまった。

「あーあ、どうすっかなー…放置プレイだよねこれ」

俺の淋しさを含んだ独り言に答える声もなく。
それでも、気持ちよさそうにすやすやと寝る顔を見て、起こすこともできず。
「あれ」のせいで眠れていなかったローグは、今俺の腕の中で
足りなかった分を取り戻すようにぐっすりと深い眠りに落ちていった。

俺の腕の中で安らかに安心して眠れるなら、いつだって
側にいてやる。
「あれ」が寄ってくる隙間も与えない。俺はお前を守ってやれるところに
いるんだから。

さほど体格は変わらない。同じ性別、同じ年頃、そして同じ滅竜魔導士。
彼も、俺も体の中には恐ろしい破壊のパワーを秘めているけれど、
今だけはただのスティングとローグなのだ。
どうしようもなく愛しい彼に。いつまでも幸せな未来を。

「おやすみ」
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