灰色の世界

染まるオレンジ






きみのゆめは、ぼくがたべた。








統べてが灰色の曖昧な世界。

蒼いはずの空も。

緑のはずの葉っぱも。

色とりどりのお花達も。


そして自分自身も。



統べてが灰色。
曖昧模糊。







『ごめん。…オレはアナタを友達以上には見れないよ』




こんな曖昧な世界で貴方の声だけははっきりと響く。




思い出したくないそれは、けれど自分を苛めるかのように消えてはくれない。




太陽よりも鮮やかなハニーブロンドの髪も。
甘い蜂蜜色に輝く澄んだ瞳も。


眼をつむれば確かな色を持って現れる。







「……ジュリエット…」





不意に聞こえた声に、脳裏に浮かんだのは今まで確かな色を持っていたあの人。



意味の無い期待を抱きながら眼を開ければ、視界に拡がったのは燃えるようなオ
レンジ。


(統べてが灰色の中、そのオレンジだけは色を失っていな
かった。)






「……ジュリエット……」



もう一度聞こえた声は、今、目の前にいる彼のもので。



無い物ねだりをしていた期待が崩れていく。



でもそれは当たり前のことだったんだ。
あの人が自分を呼ぶことなど、もう、有り得ないのだから。






「ジュリエット…泣かないでよ……」





サバンナの地平線のようなオレンジを持った彼は、自分の目許を親指で拭った。





(ああ、俺は泣いていたんだ。)






「泣かないで……大丈夫だよ。…俺が居るから」




目の前にいたオレンジは、哀しい笑みを見せながら自分を抱きしめた。



「……大丈夫。あれは悪い夢だったんだよ。授業中に居眠りをしてしまって、そ
の時に君はただ運悪く悪い夢を見ていただけなんだ。」



耳元で囁かれる声が、頭を心を支配していく。



まるで雨のように自分の中へ浸透してゆき、侵していくのだ。





「…大丈夫だよ。そんな悪い夢、俺が食べてあげるから」





身体が僅かに離れて見上げれば、彼の髪の色と同じオレンジをした瞳が自分を見
下ろしていた。



その深い瞳に、溺れそうになる。






その瞳が自分を捕らえたままゆっくりと近付いて来て。




彼に食べられた瞬間、世界は色を取り戻した。









(ごちそうさま)







再び訪れた世界で、あの鮮やかなハニーブロンドと甘い蜂蜜を見ることは二度と
無かった。












おわり。

ご拝読ありがとうございました。
そして物凄く提出が遅くなってしまいすみません;

こんな素敵な方々とこんな素敵な企画に参加できたこと心から感謝してます。
カナコちゃんありがとうございました!

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ