好き。

簡単に流されたみたいで淋しくなる。



愛してる。

重くのしかかるみたいで切なくなる。



言葉の差が、気持ちの差になってしまうのだろうか。





『ひとり、せつない、

 ふたり、さみしい。』





―――どうして僕達はふたつの生を授かってしまったのだろう。


不意に浮かんだ疑問。それは思うより先に言葉になってしまい、朋臣は謝るよう
に声を掛けた。


『和臣、少し寂しいものだね』


真っ暗な部屋。閉めきられたカーテン。照明器具は冷えており、ふたりを照らす
明かりはない。


ベッドにはふたり。視界がない為、くっつけた背中越しに伝わる体温、それだけ
が相手の存在を確かにする。


縋るように体温を感じる面積が増えた。応える為に今まで胸に秘めていたものを
少しだけ晒した。


―――どうして僕達はひとつで生を授からなかったんだろう。


『朋臣、なんでそんなこと聞いてくるんだよ』


疑問は頭の中をぐるぐる回ってる。いつもいつも、忘れられなくて、ひとりで眠
る夜が恐くなる。


―――ふたつで生まれた理由。


不気味な鳥の声を響かす真っ暗な外。誰もいない静かな部屋。窓を揺さ振る風。
冷たい布団に潜り込む自分。


―――ひとつで生まれなかった理由。


想像した『相手』のいない『ひとり』の空間。ぞっとした。恐くて、泣いてしま
いたいと思う。


―――それに意味なんて在るんだろうか。


背中に伝わる体温が、ひとりでないと、生きている愛しさを教えてくれる唯一の
存在。


これは限りなく自己愛に似ていても、何かが同じであっても自分とは違う他人だ
と理解している。


他人の誰よりも自分に近いのに、他人の誰より自分とは遠くて、矛盾している切
なくて淋しくて虚しい存在。


考えれば考えただけ闇が大きく成長して、自分も相手も消えてしまいそうになる



『いっそ、ひとつになれたら悩まなくていいのに』


不意に投げ掛けられた言葉にビクッと身体が揺れた。心を読まれ、出してはいけ
ない何らかの深い意味がありそうで。


『冗談だよ。前にドラマで言ってただけ。本気じゃない』


『ふーん……』


軽く流しはしたものの和臣は気が気ではなかった。


病院から帰ってきてから何かおかしい。視線を逸らして笑うのは隠し事をしてい
る時の朋臣の癖だ。


『和臣とひとつになりたい……全てを共有したかった』


『俺はしたくなんかないね』


『……どうして』


『朋臣が何考えてんのか知らないけど、ひとつだったらなんにも出来ないだろ』


上半身を起こし、何も説明もされず片割れを否定する朋臣の肩を、和臣はぐっと
少し強めに掴みベッドに背をつかせた。


『俺とキスするの嫌い?』


『嫌いじゃない』


視線は瞳を合わせる前に横へと流れる。逃がさまいと顎を掴み正面から唇を塞ぐ
と、眉間に皺を寄せて目を閉じた。


『兄貴は俺に自慰をしろって言いたいわけ?』


唇が離れると、やっと視線が合った。ただし、訝しげな眼差しで、何を言いたい
のかと問われた。


『ひとつになんかなったら、俺は兄貴をどう愛したらいいんだよ』


『どうって……ひとつなら』


『どっちか居ないなら、居ない相手に愛しさなんて感じないだろ』


ひとつになりたい、そう思うくらいの愛なら許されるのか。自分が居なくなって
、残された相手がどう思おうとも。


『和臣が僕じゃない誰かとふたりになるの、今は未だ考えたくないな』


窓がガタガタと揺れ、静けさを取り戻す頃には、朋臣の表情も落ち着いていた。


『……ごめん』


甘えるような瞳と、押さえ付けていた腕に手を添えられ、そっと体を重ねた。


『俺だって……わからないわけじゃないから』


月を隠す雲が厚くなり、モラルが低下していくのがわかった。縋りつく手を握り
しめてベッドに横になる。


『おやすみ、和臣』


『また明日な』




いくら重なったって『ひとつ』にはなれない。


なれたからって『ひとつ』じゃ意味がない。


なりたい、なりたくない。


どちらも好きも愛も満たしてくれず、想いが強いほどに気付かずにはいられない



ひとつに対する想い。


ふたつに対する想い。


愛しさよりも積もってしまう。


愛故に、ひとつになりたい、ひとつになりたくない。


愛故に、ふたつになりたい、ふたつになりたくない。


今は悩める日々がいつまでも続くことだけを願う。






【And that's all?】





カナコ様、参加者様、読者様へ。不協和音の愛をこめて。
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