君といた頃

□あの頃
2ページ/4ページ

 『恋人』

 一番大切な人だ。
 一番好きな人だ。

「幸せになんて、そうそうなれるものじゃないだろう」
 そんなことない、と言ったら。バカにしたように笑うから。
「俺はおまえと親友でいられて幸せだよ!おまえは違うのか?」
 父親が言っていた。親友と呼べる相手がいれば、その人生は成功だって。
「なら俺は、一生幸せにならない自信がある」

 おまえが幸せじゃないなんて、いやだ。

「憲法には幸福の追求権ていうのがあって」
 人は誰でも、幸福であろうとする権利がある。他人の権利を侵害したり、脅迫、強制したりしないかぎり。

 親友じゃなくて恋人になれば幸せになれると、おまえは言った。

 大人と子供という、圧倒的な力の差が無いかぎり、同意があれば、いい。
 俺たちは同じくらい大人で、同じくらい子供だったから、同等の同意。

 おまえが幸せになってくれるなら、協力は惜しまない。

 好きだと言い、愛してると言い、抱き合って、欲しいと求めた。
 おまえの要求には、すべて応じた。

 おまえは俺を疎んじ、離れた。
 殺したいほど邪魔だと言った。

「一番欲しいものをくれない」

 ……欲しいもの?

 俺がそばにいては幸せになれないと言うから、別れると言ったおまえを追わなかった。

 一番大切な人だ。
 一番好きな人だ。

 七年経って、連絡があった。
 おまえは幸せになっていてはくれなくて。

 おまえは俺に
「三春」
 を、くれた。


2006.9.22《了》
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ