君といた頃

□ノーサイド・笑顔
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 『笑顔』折原編

「三春さん」
 買い物袋を下げて待ち合わせ場所へ急ぐ俺の耳に、その待ち合わせ相手を呼ぶ声が。
 そちらへ視線を巡らすと、ひどく目立つであろう外見の人物が歩いていた。
 並んで歩いてる男が、先刻の呼び掛けの主らしい。会話の合間に「三春さん」と幾度も聞こえた。
 同じ名前の別人か。と、興味を失いかけた俺だったが。
 並んで歩く二人に、目を奪われる。
 形だけ捉えれば、それはただの「笑顔」。けれど、俺にとっては「三春の笑顔」と「三春を笑顔にしてる男の笑顔」。

 馬鹿げた想像だが。大学生であろうその男を見て、思ってしまった。
 ――大学生になったら、三春は誰といるだろうか。
 もちろん、俺だと言いたい。
 ――その時、三春は「三春」のような笑顔を見せているだろうか。
 その時も。三春は、折原と一緒にいたいと言ってくれているだろうか。

 初めての感情に驚く。
「そうか」
 三春の求婚は、きっと、そういう未来までの約束をくれたってことだ。
 それなら、見たい笑顔でいてくれるかは、その時々で精一杯対応するしかない。


「折原?」
 待ち合わせ場所へついて、一緒に歩き出す。まず、手をつないでみた。
 驚いたみたいだが、三春が嬉しそうに笑っている。
「よし」
 つい声に出て、さらに不思議そうな顔をした三春だが、俺を見て満面の笑みになる。

 そっちの「三春」が幸せなら、こっちの三春はその何倍も幸せにしてやる。
 すれ違っただけの誰かさんに、なぞのライバル心が湧いてしまった俺、折原寛だった。

  2006.10.23. END.
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