君といた頃

□エキシビジョン
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▼中村▲


 泣きだすかと思った。

 「大好きな先輩」の卒業の日。委員として走り回ってる、清原。
 一年生の頃は、よく泣いていたのに。泣かなくなった。あろうことか、声を上げて笑うようになった。

 誰のお陰で変わったのかは、知っている。
 清原が抱えた大量のプリントに、手伝ってやるて声をかけて、押し問答になってばらまいた時。
 階段の下で拾い集めてくれた「宮城先輩」を、どうしようもない顔して見てただろう。


 卒業式終了後。その清原が、仕事を放り出して駆け出した。
 俺も思わず追い掛ける。

 早春の陰りの中。
 もったいぶって、ちょびっとの桜。
 笑顔を向ける「宮城先輩」。
 そして。清原の背中。

「なあ、中村」
 いきなり呼ばれて、驚いてると。
「お互いに、清原を見習いたいな」
 何を。

 振り返った清原は、俺を見て苦笑いを浮かべた。

 握手を交わす二人。
 去っていく先輩。

 振られた清原は、動こうとしない。
「大丈夫か?」
「何が」
 つい、声をかけて。きっぱりと返る、強い声。
「あーうー、えーと」
 うまい言葉が浮かばない。

 いきなり歩きだす清原を、慌てて追い掛ける。
「手伝ってくれるわけ?」
 何を?あ、卒業式の後片付け。委員の仕事。
「わーった!やってやる」
 やってやる。
 なんでも、やってやるから。

 今はちょびっとだけ見える桜の花が。清原を見習って、満開になった時には。
 もっと、上手い言葉が浮かんでくるだろう。

2007.01.14.

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