君といた頃
□エキシビジョン
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▽清原△
卒業式の日。
宮城三春先輩と、この中学の校舎で会える、最後の日。
僕は意を決して、宮城先輩を追い掛けた。
委員長の仕事の締め括りで、教師に挨拶したあとの、宮城先輩は。
咲き始めた桜を見上げていた。
「宮城先輩!」
振り返る顔は、相変わらず優しい。
僕が委員を押しつけられて、委員会でちぢこまっていたときに話し掛けてくれたときから、変わらない。
「清原。卒業式、お疲れさま」
「あの…先輩も」
「ああ」
薄曇りの空。
二分咲きの桜。
先輩の笑顔。
――中学入学以来、最高の瞬間。
今しかない。
「すっ、好きです!」
何故、そこでどもるんだ。僕のばか。
「ありがとう」
え?
「俺は好きな人いるから、応えられないけど」
「好きな……人」
「ああ」
ありがとうなんて言うから、一瞬期待した。ありえないのに。
「だから、清原を見習って、ちゃんと言えるようになりたい」
え?
見習う?
先輩が、僕を?
「なあ、中村」
先輩が僕を飛び越して、呼び掛ける。
振り返るとなぜか、校舎の陰から現われた同級生の中村。
「お互いに、清原を見習いたいな」
まっさらな、先輩のことばに。バツの悪い顔で頭を掻く中村。
「それじゃあ、元気で」
「先輩も、お元気で」
差し出された右手を、握り返す。
僕はたぶん、先輩が誰を好きか知っている。
僕が落としてばらまいたプリントを、先輩と一緒に拾ってくれた人でしょう?
とても大切そうに、その名前を言っていた。
「大丈夫か?」
先輩が行ってしまってから、ぼんやりしてたら。
なぜか中村が、すぐ横に立っている。
「何が?」
そもそも、なぜここに。
「あーうー、えーと、だな」
もう、後片付けに戻らなきゃ。
歩きだした俺の後を、中村もついてくる。
「手伝ってくれるわけ?」
「わーった!やってやる」
薄曇りの空。
二分咲きの桜。
とてもきれいな結末。
なぜか隣にいる中村。
2007.01.13.