君といた頃

□ノーサイド・恋愛編
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 大学の図書館は、予想に違わず立派なものだった。
 景山先生が自慢していたのも、よくわかる。
 十年ほど前に立て替えられたということで、中は明るい。蔵書は修繕を繰り返された古いものから、新刊書まで充実している。
 感歎の息をついた俺の耳に、場違いに感じる明るい声がした。

「東京タワーはどこですか?」
 とっさに、何区だったか思い出そうとしたが、浮かばない。
「貸し出し中です」
 振り返ると、司書の女性がカウンター越しに答えていた。

 本の題名だったらしい。
 俺は次の棚へと歩き出した。
 覚えのある著者名の棚で、新聞の広告しか見たことのなかった本に手を伸ばす。
 と、同じ本に先に他の手が届いていた。
「……」
 その手の主を見ると、先ほど司書と話していた男性で。なぜか本ではなく、俺の顔を見ている。
「これ、借りていくの?」
「いえ、見ようと思っただけですから、どうぞ」
 俺とあまり年令は変わらなさそうなその男にそう言って、俺は次の本を取ろうとした。
 また、先んじられる。
 ここの大学生なのだろうか、続けて同系統の本を取るのだから勉強に使うんだろう。
 この棚は諦めようかと歩き出すと、男はなぜか付いてくる。
 偶然同じ方へ行くのかと、向きを変えても来る。

 ぐるっと回って、入り口に近い小説の棚に戻ってくると、俺は壁の時計を見上げた。
 少し早いけれど、待ち合わせ場所に行こう。
「あれ?行っちゃうの?」
 俺が出口へと歩き出すと、男が言った。
「待ってよ。これ借りてくるから」
 待つ理由もないし、男が俺に向かって言っているという確証もないから、無視して図書館を出た。

 折原の買い物は済んだだろうか。
 その姿を思い描いただけで、足が早まる。

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