君といた頃

□ノーサイド 宮城編
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 この学校は、なぜかテストの順位を張り出している。
 上位五十名、クラス名つきで。
 張り出されて二日目のその前に、折原寛が立っていて、通りかかった俺に気付いて、言った。
「宮城三春?」
 確認のような問い掛けのイントネーション。やはり、名前すら覚えられていなかったらしい。
「ああ」
 同じ中学出身で、同じクラスで委員長で、話し掛けたことも何度かあるんだけどな。
「一番なんだな」
「そうだが」
 入ってすぐのテストで、そうそう下位に行くはずも無い。コンディションも悪くなかったのだ。
「頭いーんだ、あんた」
「……成績は、悪くないほうだ」
 あんた、という呼ばれ方はショックだが、こちらを見たことが少し嬉しい。

「次も、一番とりたい?」
「そういう目標は、励みにはなるから」
 この学校で順位二桁にはなりたくないと思いながら答え……本音は会話が続いて嬉しい、だった。

「次のテストで、俺があんたに勝ったらどうする?」
 意外な言葉に、折原の顔をまじまじと見つめ返し……こんなに間近で顔を見つめるなんて初めてで。
 俺よりがっしりとした体型に似合うりりしいその顔が、小馬鹿にしたように俺を見た。
「俺が勝ったら、一つだけ言うことに従えよ」
「……なんだそれは」
「自信ないのか?」
「そんなことは、ない」
 同じ中学出身で、進学先は他に希望出さずこの学校で、この表にも名前はない折原の成績のおおよその察しはつく。そんなに簡単に上位につけるとは思えない。
「なら、いいだろう」
 唐突な条件づけに、俺は反射的に頷いていた。

 折原の方から言い出したことなのだから、勝負の結果が出るまではこの縁は切れない。
 その間は、折原の関心のいくばくかは俺の方を向いている。

 少なくとも、名前と顔は覚えてもらえるだろう。と、期待した。


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