君といた頃

□ノーサイド 折原編
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「頭いいのか、あんた」
 同じクラスの奴らでも、殆ど記憶していない俺が、見覚えがあった宮城。
「成績は、悪くないほうだと思うけど」       さらりと答える様に、中学時代から同級生で、今も同じ教室にいたことに気付く。
 たしか、委員長とか呼ばれていた。
「次も一番とりたい?」
「そういう目標は、励みになる」
 淡々と答える。
「じゃあ、次のテストで俺があんたに勝ったら?」
 少し驚いた表情になった。成績に拘らないような返答をしていても、やはり一番は逃したくないってことだろう。
「自信無い?」
「そんなことは」
「んじゃあ、次のテストで俺が勝ったら、俺の言うことに一つだけ従うこと」
「なんだ、それ」
「いいじゃないか。自信あるんだろう?」
 委員長は、渋々のようにうなずいた。


――そういう目標は、励みになる。
淡々とした声音が、脳裏に浮かぶ。
 何日かぶりに自宅で教科書を開き、テスト範囲を確認した。つまらない時間つぶしでも、その先にちょっとした楽しみを作れば、励みのようなものになる。
 少なくとも、その楽しみの時間までを楽しむことができる。
 無味乾燥な教室で、一人でも個人として認識すれば。そいつに興味を持つことができれば、退屈しのぎにはなる。
 その点、宮城三春はいい選択だったと思う。委員長という立場からなのか、授業中以外ほとんど立ち働いている。プリント配りに伝達事項の処理、教師の呼び出しのフォローに教材の点検。公務がなければ、クラスメイトの臨時教師だ。聞くとはなしに聞いていると、うんざりするほど懇切丁寧に、納得するまで付き合っていた。
 まるで「できる人間」の手本を演じているようだ。
そいつが、1位陥落の瞬間どんな顔をするのか。
「目標は励みになる。か」何をさせてやろうかと、考えるだけでも楽しかった。
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