とうこうもの
□夏の空まで
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「始まりの頂き」
彼の背番号は「1」。
バックネット裏から望遠レンズを向けて、投球動作に入る彼の背番号を見るのが好きです。
彼は今年高校三年になり、最高学年で一番防御率の高い投手として、文句無しに「1」をもらったそうです。
僕が初めて彼の投球を見たのは、彼がまだ一年生で背番号「18」の時でした。
僕たちが学校新聞の応援に駆り出された試合の、対戦相手の三人目の投手で。一回表の八点目が入って満塁の場面での登場だったそうです。
変な投げ方をする、と思いました。それまで見た投手の誰とも違い、彼の投球の型は背番号を打者に見せるのです。
「満塁だぞ」
僕のとなりでは写真部の先輩もカメラを構えていて、呆れたように言ったのが記憶に残っています。
「1」をこちらに見せて、彼は危なげない投球を続けます。
走者を出したのは、外野手が落球した一人だけ。その一人も、併殺というのですぐいなくなりました。
その日。彼は十一回を投げ、勝利投手になりました。
僕は撮影した写真から一枚をパネルにして、彼の学校あてに贈りました。
それ以外、彼に何か接触を計ったことはありません。
ただ僕は。
彼が「18」を背負って現れたあの日の。
彼の胸に飛び込んでいった打球をグローブに納めた瞬間の、あの笑顔を忘れられず。
その瞬間、シャッターを押せなかった自分を、情けなく悔やみ続けて。
金網とレンズ越しに、見つめ続けるだけなのです。
未だ始まりの場所にて
第57回
※「起」事の起こり、ということで試合を「始める」人を見つめる「始まり」の話。
四回繋げてもとのことなので、高校野球シリーズにしてみよう!かな、と。