君といた頃

□あの頃
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 『三春』

 仰々しい音楽が流れ、画面に漢字五文字のタイトル。
 元親友の洋丞がレンタル店で見つけてきたDVDを、興味もなく眺める。
「これ、ナレーションの声がいいんだよ。優しい人柄がにじみ出てる」
 日曜夜の大河ドラマ。戦国武将が主人公で。
「うちの父親が、宮城つながりだって、俺に見ろって言い付けて」
「宮城?ああ、これの地元か?」
「うん、仙台」
 テレビ前のソファーと洋丞の間に割り込む。家具に寄り掛かるくらいなら、俺にしろ。
 姓が宮城だからって、宮城県仙台市ゆかりの時代劇を見ろって親もどうかと思うが、素直に見てたおまえも変だ。
 そんな昔の、思い出のドラマを借りてくるのも、変だ。

 恋人の部屋に来てるのに、いつもと変わらないなんて、変だ。

「三春っていうんだって」
 聞き流した言葉の、途中だけ聞こえた。ドラマの中の話題らしかったが、わからない。

「梅、桃、桜が順番に咲いて、三回春があるから、三春って呼ばれてる土地なんだって」

 きれいな名前だろう?

 無邪気な顔で、洋丞が俺を振り向いた。


 子供ができたと知ったとき、生まれるより先に、三春と名付けた。
 そんな筈もないのに、別れてきたおまえの子供のような気がした。

 だから、おまえにやる。

2006.09.22. 《了》
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