君といた頃
□エキシビジョン
1ページ/3ページ
◇宮城◇
中学生活三年間のしめくくりである卒業式が、滞りなく行なわれた後。
最後のホームルームを前に、同級生の折原寛は教室に戻る生徒の流れを一人外れた。
儀式めいた挨拶だけの時間だから、関心が無いのも当然かもしれない。
少しだけ考えて、折原の後を追い掛ける。
急ぎもせず、ただ普通に歩いていく。たぶん、帰宅するだけだろう。
――別れを惜しんだりは、しないんだな。
校門を出るのを見届けて、教室に戻るべく歩きだす。
同じ高校に進学すると、決まっている。
けれど、知り合い以上の関わりをもつことなど、期待できない。
校舎まで並ぶ、咲き始めた桜を見上げる。
その名を知らなければ、桜は桜ではなく。
折原にとって俺は、この桜ほどの存在もないだろう。
「宮城先輩!」
呼ばれて、振り返る。委員会で顔を合わせていた、後輩の清原だ。
「卒業式、お疲れさま」
「あの…先輩も」
「ああ」
喋りながら赤くなる癖も、一生懸命さの現れだろうと、微笑ましい。
「すっ、好きです!」
ああ、それで。式の後片付けがあるのに、ここにいるのか。
「ありがとう」
人一倍真面目なのに、委員の仕事抜け出してきてくれた。
「俺は好きな人いるから、応えられないけど」
「好きな……人」
真っすぐな言葉で、伝えてくれた。
「だから、清原を見習って、ちゃんと言えるようになりたい」
驚いたような顔して、清原は俺を見てる。
その向こうには、清原を呼びにきたのか、時々一緒にいた同級生の姿。
「なあ、中村」
この真っすぐさに、追い掛けずにいられなくなった姿。
「お互いに、清原を見習いたいな」
バツの悪い顔で頭を掻く中村。
「それじゃあ、元気で」
「先輩も、お元気で」
握手をかわして、別れる。
俺も、言えるだろうか。
好きな人に、好きだって。
宮城三春っていう人間が、折原寛を好きで、ここにいるって。
2007.02.12.
.