君といた頃
□アゲインスト〈参考記録〉
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「一緒に暮らしたい人がいる」
兄の宮城三春がそう告げたのは、弟である俺と智尋が中学三年になり、受験生と呼ばれる事に慣れ始めた夏のこと。
「何考えてるんだよ、いきなり」
兄貴は世間の常識的というやつを、気にするタイプだったはずが。
「まだ高校入ったばっかりで、受験生二人も抱えた男ばっかりの家に、女を連れ込むつもりか?」
「久市、違うんだ」
食事の終わったテーブル挟んで、思わず立ち上がり怒鳴った俺を、三春が遮った。
「折原は男だ」
「え?なんだ、そうか」
早合点だったか、と座りなおす。
「でも、部屋無いんじゃねえ?個室がいいだろ?」
寮じゃあるまいし、と思いながら言うと。三春が顔を赤らめて。
「俺の部屋で、いいんだ」
「え?」
「結婚するんだ」
と言った。
何を言われたのか、すぐにはわからない。
「何血迷ってんだよ!」
ようやく言葉の意味は、わかったが。
「久市、あんまり怒鳴るなよ」
のほほんとした声が、すぐ横からした。
「智尋、おまえは平気なのか?」
「まさか」
智尋は肩をすくめてみせる。
「でも、感情に任せて怒鳴るより、理詰めで説得する方が、効果的だと思うけど?」
「なら、やれよ」
馬鹿にされてるみたいで、なんだか嫌になる。
「三春兄さん」
「なんだ?」
「決めちゃってるんでしょう?」
智尋が言うと、兄貴は頷いて。
「ああ。すまない、二人とも。もう、決めたんだ」
決心してしまった三春は、どうやったって揺るがない。
「折原の部屋の契約が八月で切れるから、それまでに引っ越しを済ませる」
「勝手なこと言うなよ!」
俺は宮城久市。一つ上に兄の三春、五ヵ月ばかり下に弟の智尋がいる。
保護者は宮城洋丞という弁護士で、その部下の石井さんが俺たちを育ててくれた。
他人の寄せ集めの、変な家族だ。
いまさら他人が一人増えたって……。
やっぱり、なんか嫌だ。
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