君といた頃

□ノーサイド・約束編
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 二学期が始まってから、一番変わったのは、お昼休みのお弁当だ。
 相変わらず勉強会なグループになりながら、教室の窓際でそれぞれの昼食を広げる。
「委員長の弁当、うまそー」
 誉められると嬉しいけど、照れる。このお弁当は、我が家の食事当番を背負ってくれてる、折原が作ってくれたもの。
「前と違うくねえ?」
「そうそう、いかにも料理慣れてないっぽい野菜炒めだけとか」
「でかいおにぎりだけ、とか」
「失敗した煮物……あれ、肉じゃがだったっけ?」
「みんな、よく覚えてるなあ」
 食材加熱だけ念頭においた智尋、一つで済ませる久市、挑戦はするけど失敗続きの俺。
 昔は人を頼んで、家事をしてもらってたからか、なかなかうまく行かなかった。
「新しいお母さん?」
「え?」
「宮城委員長の家に、嫁入りした人でもいるの?」
「いっいないよ!」
 否定しながらも、真っ赤になってしまう。嫁入りじゃなくて……折原は男だから。
 お婿さん?
「冗談だから、委員長」
 折原は、俺からの結婚の申し込みを受けてくれて、我が家に来た。
 受けてくれた、その理由はたった一つ。
「いただきます」
 とにかく食べよう。横にノート広げて、質問の応酬をしながら、箸を使う。
 ながらでも食べやすいようにとの配慮で、ご飯は一口分づつの固まりになって詰められている。おかずも、彩り良く並んでいて。
 リクエストした厚焼き卵を一口。
「次、数学ね」

 目線を後ろの入り口の方に向けると、折原の席。
 辞めるはずだった高校の教室に引き続き現れた姿に、教師達は不思議がりながら歓迎した。
 折原は一人でいる。時々目が合うから、俺のことを気に掛けてくれてるんだと思えて嬉しい。

 次は何を。
 煮物だと思っていたのが、なんだか様子が違う。
 炒め煮、らしい。けれど、問題は。
「炒り豆腐なんて、凝ってますね」
 副委員長が言うから、相槌を打ち、再び折原を見る。
 携帯電話。取り出して、見て、顔をしかめた。
 指を動かして、操作してる。
 同じ教室にいるんだから、そんな筈はない。そう思いながら、自分の席の鞄を見ると。
 振動した。
 立ち上がり、驚いて見上げてるみんなに謝りながら、席へ向かい。
 鞄から、携帯を取り出す。
 新着メール、1件。
 発信元、折原寛。
 内容は…。
 ――苦手なら残せ。
 折原を見ると、俺に向かって頷いた。
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