君といた頃

□ノーサイド 宮城編
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 中学三年の秋。学校の廊下で、階段上から大量のプリントがばらまかれた。
 誰の物か確認するより先に、拾い集めた。どこかから入り込む風に、遠ざかる数枚を追い掛けて。
 低空飛行のそれらを、手際よく捕まえる手。
 追い掛けていた俺を持ち主と判断したのか、無言で差し出されたプリントは、表裏も端も揃えられていた。
「ありがとう」
 持っていた分と合わせて揃えなおし、言うと。
 もうそこにはいなくて。
「ありがとう。助かりました、宮城先輩」
 落とし主がやってきたので渡す。
「俺だけじゃなくて、折原も拾ってくれたんだ」
 無愛想で、いつも一人でいる同級生。
 まるで正義の味方みたいだなあ、とずっと憧れていた。
 やっぱり、離れたくないと、その時思った。


 志望校を変えるにあたって保護者に報告したが、彼らは進学先には関心が無いらしく「そうか」と言って書類にサインをした。
 弟たちは「どうしてだ」と訊いてきたのだが、「心境の変化だ」としか答えられなかった。
 好きな人を追い掛けたかったから、なんて言える訳もないが。


 同じ高校へ入学を果たし、同じクラスになっても、折原とは殆ど口をきいていない。
 新入生代表で挨拶をし、学級委員にもなり……肩書き上は目立つと思うが、折原は興味が無いようで。
 委員として話し掛ける機会はあっても、会話に発展させる才能が無い自分が情けなくもある。
 もしかして、肩書きで欝陶しがられてるとか?
 じゃないといい…せめて、嫌われてなければそばで見ていられる、から。


 。
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