短編
□四百四病の外
2ページ/2ページ
私が再びケーキ屋の扉を開くと、中に居た夏男君がぱっと顔を上げてこちらを見た。
「お帰りなさい」
「ただいま。はいこれ」
「?」
私が差し出した箱を、不思議そうに見つめる夏男君。
分かっていないようだったので、こちらから言うことにする。
「プレゼント」
「え」
「安物だけど」
「え、え、うわ、開けていいですか!?」
ショーケースの前で開けると邪魔になるので店の端に移動する。
夏男君はじっくりプレゼントの箱を見てからうきうきと包装紙を破って開けた。
「……うわあ」
夏男君から出た声が落胆のものじゃなくて良かった。
夏男君は、本当に嬉しそうな顔をしながら、小さな箱に入った小輪の白バラでできたフラワーケーキをじっと見つめる。
「ホールケーキは買ってあげられないから、代わり」
さっき花屋に並んだフラワーケーキを見ていて良かった。
男の子のプレゼントに花というのもどうかと思ったけど、夏男君も気分だけでもバースデーケーキが欲しいと言っていたし。気分だ、気分。ドライフラワーだから手入れをする必要もないし、飾り物にしておく分にはいいだろう。
「すごい綺麗だ。大事にしますね」
夏男君は丁寧に花を箱に仕舞い直すと、それをコートのポケットに入れた。
包装紙は迷わずゴミ箱行き。まあ、彼らしいっちゃ彼らしい。
「でも、なんか悪いなあ」
選んだケーキを店員さんから受け取りながら、夏男君が言う。
「ケーキも花も、先輩の方が似合うのに俺が貰っちゃって」
「……」
「ケーキとか花とか、やっぱ可愛い女の子とセットになってる感じじゃないですか?」
何かと思えば、素でそんなことを言われた。手を握っていたくらいで真っ赤になるくせに、気障ったらしい台詞には抵抗がないらしい。いや、無自覚なのか?
私は一人なんだか恥ずかしくなって、そっと夏男君から視線を逸らした。
せめて顔の赤らみが取れるまで黙っておこうと思った先、ふわりと私の首に温かいものが触れる。触ってみると、柔らかい。
夏男君が巻いていたマフラーだった。
「お礼です。外寒いから風邪引かないように」
「ありがと……」
ああもう、なにかを誤解した店員さんが微笑ましそうにこっちを見てる。
ケーキ屋のガラス扉に映った私たちの姿が、まるで恋人のように見えたのは、街を彩るクリスマスの雰囲気の所為だろう。きっと。
そうでなければ、外の寒さに触れた赤い顔の所為だ。多分。
白い小バラの花言葉*恋をするには若すぎる
四百四病の外*恋の病
----------
夏男男設定でも読めないこともない。
フラワーケーキってかわいいよね。
一日早いけど、夏男君、そして真冬さんお誕生日おめでとう。