短編
□vandalise
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「おはようございます」
桜の舞う中、ぶっ倒れた女は、保健室のベッドの上で呑気に挨拶をしてきた。
目を覚ましたならもういいか、と思い、綾部は無言で保健室を去ろうとしたが、その前に女がちょいちょいと手招きをする。
「花びらついてる」
そして、何かと顔を寄せた綾部の髪にすっと手を伸ばし、髪に絡まっていた桜の花びらを摘み取った。
あまりに自然な動きだったため、反応ができなかった。
「あ、で、コスモスって秋の桜って字じゃない?」
倒れる前の話の続きらしい。
マイペースに語りだす女に、綾部は眉を顰めてみせた。
「春の桜も秋の桜も、一輪咲きはしないよね、寂しがりなのかね」
なのに散る時はひとひらずつなんだよねえ、悲しいねえ、と女は若干呂律の回っていない口調で言った。
寝惚けているのか。
「ひとりじゃ咲けないって、ひとみたいだよねえ」
一瞬、心臓を掴まれたような気がした。
一人で過ごしていこうと、人と関わらずに生きて行こうとしていた自分の心を読まれ、否定されたようで。
脈絡のない花の話も、それを言うために始まったのではないかと、綾部の中に、不安の色が広がった。
ころりと横になったままの女の頭が綾部の方を向く。とろりと薄く開かれた瞳にすべてを見透かされそうで、綾部は思わず視線を下げた。
が。
「……誰?」
女は、ようやく綾部の姿を認識したかのように、不思議そうな表情で綾部の名を訪ねた。
前言撤回。やはりただの阿呆だった。
「あや、ぶ?違う、あやべ、か」
持っていた鞄の名前を見たらしい。自己紹介するまでもなく女は綾部の名を読んだ。
「白木樹季です。よろしく、綾部君」
入学式の昼下がり。
綾部の『壁』を易々と突き抜けてきた女は、眠たそうな、のんびりとした声でそう言った。
Vandalise*(公共物などを)破壊する
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綾部がだいぶぶっ壊れてるけど、ドラマCD2の暴走よりはましだよね。ね。だってあれ真冬がきれいになって戻ってきたってことは洗濯しちゃったんだろ?脱がせちゃったんだろ?
夢主と綾部の出会いの話。
あんど変態綾部。
夢主は前日締切に追われて睡眠不足でした。