短編
□vandalise
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※『東方邂逅』で夢主が即決で「歩いて帰る」を選択すると綾部ルートに入ります。そんな本編とは別のパラレル話。
4月。緑ヶ丘高校の入学式。
変な女に出会った。
その女は、新入生がつける花飾りを片手に持って、裏庭に立ち、ぼうっと空を見上げていた。
入学式の後、一年生のクラスで自己紹介を終え、埃っぽい教室を出た綾部は一人、人のいない場所を求めて校内を徘徊していたところだった。
「……おい」
誰とも話さない。
誰とも関わらない。
そう心に決めていたのに、その女に声を掛けたのは、その女が明らかに普通では無かったからだ。
瞬きもせず、微動だにせず軽く顎を上げて空を見つめているその姿はどこか非現実的で、幽霊と言われれば信じてしまいそうなほど、儚げだった。
女は、ゆっくりと顔を巡らせ、ぼうっとした表情で綾部の目を捕えた。
そして口を開き、
「コスモスって秋の桜って書くよね?」
訳の分からないことを呟いた。いや、意味は分かるが何故ここでいきなりコスモスの話題が出てくるのかが分からない。
は?と綾部が聞き返す前に、女は視線を空に戻した。そして、ふっと目を閉じ、
ぶっ倒れた。
「……は、ええっ!?」
女が倒れた瞬間、地面に広がっていた桜の花びらが、風に煽られてふわっと巻き上がる。情景としてはとても綺麗だったが、綾部にはそんなものをゆっくり見ている余裕など無かった。
こうなっては人と関わりたくないと言っている場合ではない。うろ覚えだった保健室の場所までどうにか女を運び、今から職員会議に出るという保険医に頼まれ、女の目覚めを待つことになる。
あれから数か月。認めたくはないが、それなりに親しくなったのだろう。
少なくとも樹季はそう思っているようで、なにかと綾部に声を掛けるようになった。
樹季は見た目はしっかり者のような癖に、案外抜けている所が多い。
邪険にしながらも、綾部が本気で樹季を拒絶しきれなかったのは、生来の世話焼き癖が出てしまっていたからという点が大きい。
しかし、本当なら、意地になってでも樹季を拒絶すべきだったのだ。
そうしておけば、こんなことにならなかった。