短編

□祭模様
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「はっずれー」
まあ、お祭りのクジなんてこんなもんだよな。私は屋台のおじちゃんからハズレの景品である鳥笛を受け取った。

確かこれ、航ちゃん好きだったよな。機会があったら渡そう。


気の抜ける表情をした鳥笛を適当にショルダーバックに突っ込み、私はぶらぶらと屋台を見て回った。

杏飴がないな。私あれ好きなのに。

私はショルダーバックのポケットから携帯電話を取り出し、メールの発着履歴を確認する。

想像以上に暗い気分になる。

気になってしまうのは仕方ない。
緊急の連絡が入っていないか、せめてそれだけでも確認しておかなければ。

そんな言い訳を心の中でして覗き見る携帯には、やはり何の連絡も入っていない。ぱちんと携帯を閉じ、またバックに仕舞う。


私が気になっているのは、毎年一緒にお祭りに行っていた幼馴染のことだ。

行っていた、と過去形で語るのは、今年は一緒ではないからだ。
今年は、中学の友人たちと回るらしい。

航ちゃんも段々男の子らしい友人が増えていたし、そろそろかな、と思ってはいたが。

実際ひとりで屋台を回ると空しさが際立つ。
だからといって航ちゃんに無理を言って付き合わせるわけにもいかない。彼にも付き合いというものがあるだろう。

家族でもないのに私がもやもやするというのも変な話だけど。いや、幼馴染なんだから寂しいのは当たり前なんだろうか。航ちゃんと妹の港ちゃん以外の幼馴染がいないからよく分からない。

そんなことを考えながらふらふらと歩いていたからだろうか。

前方からずんずんと近付いてくる人影に気付かなかった。

その人影は、明らかに業とらしく、どんっと私の肩にぶつかり、大きな声で言った。


「あーあ、どこ見て歩いてんだよ!このシャツ、高かったんだぞ!」


「な……」
なんてベタな!!


ぶつかられたことより下手な小芝居に驚いて黙ってしまった。

確かに、お兄さんのシャツにはべっとりとかき氷のメロンカラーが移っていたけれども、お兄さん、それアンタが持ってたかき氷でしょうが。

どうしようかと道の真ん中で立ち尽くすが、周りの人たちはきれいにお兄さんと私を避けていくばかりで、助けてくれる様子がない。仕方ないこうなれば。


「あっ!!」


三十六計逃げるに如かず。私はお兄さんに背を向け人の間を縫って走り出した。




「は、はあ、はあ、っは」



人が多い分、小柄なこちらに有利だろうと思っていたが誤算だった。

今の時間は花火大会が始まる時間。通りに居た人々は花火を見るためにそれぞれ場所取りをした所へと捌けていく。

通りが走りやすくなれば、ばりばり文化系な私と不良のお兄さん、分が悪い方は明確だ。




「待て!」




しつこくお兄さんが後ろから追ってくる気配がする。

どうしてそんなに私に拘るんだ単細胞!

悪態を吐くのも心の中だけだ。今口を開いたらきっと心臓が飛び出る。



「この!」



お兄さんの手が私の被っていたキャスケットを掠めた。

キャスケットが落ちる。


「ガキが!!」
「いっ」
キャスケットの中に入れていたポニーテールを掴まれた。

上を向いた頭に引っ張られ、がくんと体が揺れる。

近視と急な運動のせいでぼやける視界に、お兄さんの赤い怒り顔が見えた。
ぐい、と髪を引かれてお兄さんの方へ引き戻される。


「捕まえ――」


やばい、と思ってとっさに目を瞑った時だった。



「……ンの野郎!!」



聞き覚えのある声がしたと思って目を開けたら、お兄さんの体が横に吹っ飛んで行った。少しだけ私の髪がお兄さんに引っ張られたけれど、殴られた瞬間にお兄さんの手が緩んだのか、一緒に飛ばされることはなかった。



「航ちゃん」



さっきまでお祭りを満喫していたんだろう。頭にお面、片手にたこ焼きや焼きそばの入った袋、手首に発光ダイオードを巻いた姿の幼馴染、寒川航平はぜえぜえと息をしてお兄さんを殴った手に持っていたポイをばしんと地面に叩きつけた。
そして、今自分が殴り飛ばしたお兄さんの胸倉を掴んで、なお殴りかかろうとする。


とっさに私は航ちゃんの脇腹をつついて動きを止め、手を取った。



「逃げるよ」

「ぇ、あ、おい!!」

不満げな声が上がったが、無視して引っ張る。長年お姉さんとして面倒を見てきた所為だろうか。文句は出たが抵抗なく航ちゃんは付いて来た。


「……なんで止めたんだよ」


お兄さんからも屋台からも大分離れたところで足を止めれば、開口一番に聞かされたのは幼馴染の不満な声だった。

だって、警察来るし。

ほとんど声らしい声を出すことはできなかったが、長年の付き合いのおかげで、言いたいことは伝わったらしい。不満そうな顔のまま航ちゃんは口を噤んだ。

代わりに、いつの間に拾ったのか、私がさっき落としたキャスケットを私の頭に乗せた。


そして、申し訳なさそうに呟く。
「俺、あの野郎がぶつかる前に樹季姉ちゃんに気付いてた」


けれど、自分が友達と一緒だったので、自分から声を掛けにくかったらしい。

あのチンピラが近付いて行った時も、あ、危ないかな、とは思ったけれど、それでもなんだか尻込みしてしまって、声を掛けるのを躊躇ってしまった、と言って俯いた。


「……ごめん」

「……あ」


呼吸がやっと落ち着いてきた。


「杏飴買ってくれたら許す」


よく考えなくても航ちゃんは悪くないのだから理不尽な条件だが、航ちゃんはほっとしたように頷いて、花火の打ちあがるお祭り会場に向かって私の手首を掴んで歩き出した。



まあ杏飴無いんだけどね。


それで航ちゃんが焦りだしたら、どうやってからかってやろうか、なんて思いながら私は、いつの間にか大きくなっていた航ちゃんの背中を追ってゆっくり歩いた。














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あとがき。(2016.1.7)

あけましておめでとうございます。
拍手のサルベージ。




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