文芸道
□暗小道
1ページ/3ページ
我が二年四組の出し物は猫カフェだ。
猫を連れ込むわけにはいかないので、内装を猫尽くしにし、店員が耳を付けるだけだが。
と、いうわけで、高坂に文句を言いに行った。
「……どうして私が責められているんですか?」
今日の『午後五時の神隠し』に使う食材を届けた時に、文句を言えば、高坂は引きつった半笑いでそう問いかけてきた。
「私と貴女のクラスの出し物は関係ないでしょう」
……ここで問題だ。
私は文化祭準備期間の大半を、この神隠しの手伝いで潰さなければいけない。
客の見極め役から、食料補充役に変えて貰ったが、忙しいことに変わりはないのでクラスの方を手伝えない。
が、出し物自体にはどうあっても参加しなければならない。
買い出し組は男子がやるので除外。
衣装・メイク係も手芸部がやるので除外。
残った役職はなんでしょう。
「別にいいじゃないですか、接客で」
高坂は軽く言ってくれる。
よくねえよ耳付けなくちゃいけないんだよ。
私は自分の無愛想さをよく分かっている。
何が悲しくてこの無愛想な顔に猫耳をつけなければならないのか。
恥ずかしいを通り越して情けなくなってくる。
「あれ、そういえば先輩のクラス、今日衣装合わせするっていってませんでした?」
メイドさんたちのひとり、海野君、通称マリンちゃんが無駄に覚えのいい頭を使ってきた。なんで知ってるんだ。
神隠しメンバーに言ったのは、私のクラスでの出し物が猫カフェになったというその一点。
クラスで行われる予定については、必要もないだろうからと伝えないでおいたのに。
マリンちゃんの言葉を聞いて、その場に居合わせたメイド軍団が騒ぎ始める。
「ええ!?そんな大事な用事を蹴ってまで俺達に協力を……!?」
「今日一日くらいは構いませんから、クラスの方に行ってください!」
「そうです!なにも先輩の予定を潰してまでやってくれることはないんですよ」
別に大事な用事ってわけじゃないし元々サボる気だったし。
コスプレ趣味があるわけでもない故、衣装にときめきなぞ感じない。教室に戻れと言われても困る。
だが、可愛さを極めようとしているメイドたちにとって衣装合わせとは、それこそ接客の次に大事なポイントであるらしい。私を置いて勝手に盛り上がっている。
収集が着かなくなってきたので、どうにかしてくれと私は高坂に目で訴えてみた。
高坂は承知した、というように頷き、私の手から食材の入った段ボールを受け取り、横に置いた。そして、ぐるりとメイド集団を見渡し、私の横に立って、芝居がかった手つきで片手を挙げた。
この場の統率者である高坂に、メイドたちの視線が集まる。
「今日は一日白木さんは休憩。異論はありませんね?」
……どうやら私の視線を休憩の許可を伺うものと勘違いしていたらしい。
いや、違うんだけど。と言う前に、押し出されるように空き教室から締め出された。
クラスに戻れば衣装合わせが待っているのは容易に想像できたので、自分のクラスは避けて、広い校舎を徘徊する。
無駄に広いこの校舎は、何かから逃げるにはちょうどいい大きさだった。
さて、何をして時間をつぶそうかと一年教室の前をぶらぶら歩いていると、急に腕を引かれる。
「白木先輩っ」
四津谷君だった。
夏休み中、百物語に私を誘ってくれた彼は、私に懐いてくれている。
以前生徒会長から、私には一部のホラーマニアの間でカルト的な人気があると聞いたことがあるけれど、怪談好きな四津谷君もその口だろうか。
……というか、私は小説を本名で公表していないのに、なんでちらほらばれてるんだろう。
「先輩、俺のクラス、お化け屋敷するんですよ。まだ作りかけですけど、ちょっと入っていきません?」
四津谷君が示した先には、暗幕の張られた教室。
断る理由もないので私はすぐに了承した。
「じゃあ、ちょっと待ってください、セッティングするんで」
そう言って四津谷君は意気揚々と暗い教室の中に入っていった。
まだ作業中だろうに、私が入って邪魔にならないだろうか。
そんなことを考えていたから、私はすぐ横に立った人物にすぐには気付かなかった。