文芸道

□生徒会とメイド達
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彼女が作品を作り上げる時に必要とする、人間の本質を見る観察眼が本物だとすれば、今回の作戦に生かさない手は無い。

試しに樹季に、今回の作戦に使う『客』に相応しい人物を見極めてもらえるかと尋ねたところ、あっさりと了承の返事が返ってきたため、できないことはないのだろう、多分。



「でもね、私がそれを見極めたところで、そのひとが都合よくひとりで廊下を歩いてくれる?」

「そこも貴女の仕事です」



どういうことだ、と言いたげに樹季が高坂を見る。


「広く浅くの付き合いをしているという人は、こういう時に動きやすいんですよ。貴女が重そうな荷物を持って、これを運ぶのを手伝って欲しいとでも言えば、断る人間は少ないでしょう?」


貴女、見た目はか弱いですから。と付け足した言葉に、樹季の眉がぴくりと動いた。

高坂に他意は無かったのだが、樹季はそう取らなかったらしい。
ふい、と拗ねたように横を向かれた。

「ちょっと、」

「いきなりメイドさんたちに引き合わせずに、別室で任意参加の意を聞いてからお客さんになって貰えばいいんじゃないですか。自分で選んだ分には文句も出ないし、口外しない約束も守ってくれるでしょ」


巻き込む人は自分で選んでください、と言う樹季はもう高坂と目を合わせる気はないらしく、横を向いたままの顔を元に戻そうとしない。

これはまずい、と高坂が樹季を説得しようとしたとき、樹季の携帯が鳴った。


「航ちゃんか……ちょっと失礼」

「航ちゃん?」

「幼馴染」


短く答えて、樹季は少し高坂から距離を取る。


電話が終わったら説得にかかろうと高坂は樹季の動きを目で追った。控えていたマッチョメイドたちも、雲行きが怪しくなってきたことは雰囲気で分かったらしく、心配そうに樹季の様子を見ている。



「もしもし、航ちゃん?」



幼馴染と会話をすれば多少は機嫌も直るはず。

その隙を付いて、もう一度口車に乗せてしまえばいい。そう思い、高坂は電話が終わるのを待った。





「はあ?港ちゃんの恋愛事情なんて私が知るわけないでしょ」



が、電話の応対をする樹季の声はいつもの数倍低かった。



「大体兄貴がぐだぐだ恋愛ごとに口出ししてくるほど鬱陶しいことはないの、うざい気持ち悪いで終わるのが定石なの。男らしく交際を認めるかすっぱり会うのを禁止して嫌われるのか覚悟決めろよ鬱陶しい



樹季の口調が段々荒くなっていく。

さっきとは違う意味で、高坂とメイドたちは固唾を飲んで電話の成り行きを見守っていた。



「なに、まだ付き合ってない?杞憂ごときで相談してくんな、私も忙しいのマニュアル人間とマッチョメイドの相手しなきゃいけないの。……そこに食いついてくんじゃねえよむしり取るぞ



なにを!?


びくっと肩を跳ねさせる男衆に気付いた様子もなく、樹季は会話を続けている。
だいぶ部屋の温度が下がった気がする。



「うん、じゃあ、相談するのはなにかあってからにしてよ、こっちもすぐ行けるわけじゃないんだから。……じゃあね」



携帯を切ってポケットに仕舞い、樹季は高坂に向き直った。

確かに機嫌は直ったらしい。すっきりした顔だった。


「どこまで話してたっけ?」

「いや、その……」

会長から彼女はあまり愛想のいい方ではないと聞かされていたが、高坂にはそれでも樹季をうまく扱える自信があった。
無口な女生というのは、雪岡小鞠で慣れている。
……実は高坂が小鞠とうまく付き合っているわけではなく、小鞠の方が体よく高坂を動かしているだけなのだが、それは本人は気付いていないことだった。

とにかく、数分前まで高坂は樹季をうまく扱えると自負していた。


だが、低い声で電話する樹季の姿を見た高坂にもう説得する気力は残っていなかった。




「……客は自分で選びます」






――怖いよ、彼女は。





ここにいない、花房の言葉が頭を過ぎった。









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あとがき。

夢主はそれほど自分の観察眼を凄いもんだと思っていない。
小説書くとき以外に生かす気もないし機会もないと思ってた。

高坂はいざというときに夢主に全部罪を被せられるよう、メールや客引きなど、主体的に夢主に動いてもらおうとしてる。

夢主が客引きを嫌がったのは、そんな高坂の意図に気付いたからでもある。

観察眼が鋭いと人の嫌な部分が見えてしまうので、夢主はドライなのです。

夢主の口調が荒くなったことをお詫び申し上げます。
夢主にとって奴は家族のようなもんなので素が出やすいのです。

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