文芸道

□生徒会とメイド達
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ポイントは、囮となるこの諍いが不良が関わらないものであること、そして、その諍いは風紀部が気を取られやすい一組と二組で行われること。

今回の本命の騒動に気付かれない最良の作戦と言えよう。




が、ひとつ問題がある。







……――これじゃ私が執事萌えメイド萌えの変態みたいじゃねえか!!



友達が少ないからって引かれたくないんだよ!適度にいい知り合い関係を築いていきたいんだよ!!
ただ萌えてるだけならまだしも、わざわざ後輩のクラス中にメールして執事推しメイド推しする先輩とか気持ち悪いだろ!片や女装勧めてるよ!!



だんだんだん
と床に拳を叩きつけ、作戦を考えた高坂に恨みの念を送る。


これでメール使用量として二千円渡されていなかったら確実に断った。断固として作戦の練り直しを要求した。でも今月も金欠だった!!



涙の滲む目元を袖で拭い、私は携帯を拾い上げ、高坂に仕事が完了した旨を連絡する。

明日もなにか私の仕事があるらしい、2年の空き教室に来い、とメールが返ってきた。






***






呆けた顔で、協力者、白木樹季は空き教室に並ぶ面々をぐるりと見渡していた。

教室の中には、メイド服を纏ったマッチョの面々。



「これがもうひとりの協力者、二年四組の白木樹季さんです」



その中で一人、唯一男子の制服を身に纏った高坂は、予定通り、手短に樹季の紹介を済ませた。


そのまま樹季の手を取り、教室の隅に連れて行く。
まだメイド服の衝撃が抜けないのか、樹季は素直に付いて来た。


「どうです、完璧でしょう」

「私なら執事喫茶に一票入れる」

「出し物じゃありませんよ、作戦の話です」


ひそひそとマッチョ達に聞こえないよう、小声で話す。



「これから作戦通り、我々はこのメイドたちの接客指導を行います。その『客』を貴女が選ぶ、いいですね?」

「……でもねえ」



樹季の返事は色よくない。ここまできて尻込みしてしまったのかと高坂は表情を堅くした。



「頼みますよ。そこそこ気が弱くて口の堅い、暴れず騒がずその場の空気に流されやすい人間を見極めるには、貴女の観察眼が必要なんです」



生徒会長の花房曰く、樹季は、恐ろしいほど人の本質を見極めているのに秀でた人物なのだと言う。

本人に自覚があるのかどうかは分からないが、その観察眼で知る人間の姿は、彼女の書く小説に如実に表れている。だから彼女の書く恐怖、推理小説は恐ろしいのだと花房は語っていた。




――怖いよ、彼女は。




誰かに腹の底を探られているような感覚。
誰かに見張られそれを小説として晒し出されたような感覚。

それを感じさせるだけの観察眼を、彼女は持っている。




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