文芸道
□悪役たちの内緒話
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生徒会長からの二度目の呼び出しには、初めて見る男が同伴していた。
「高坂といいます」
男は紳士的な笑みを浮かべて、よろしく、と樹季に手を差し出してきた。
「今度のお願いなんだけどね、高坂と協力して、文化祭をめちゃくちゃにしてほしいんだ」
握手を交わす私たちを見ながら、生徒会長はにこにこにこ、と邪気のない顔でとんでもないことを私に言い放った。
……。
いや、もちろん断りましたとも。
文化祭を潰したところで、私にメリットないし、すんごく俗っぽい理由を言えば、私だって単純に文化祭楽しみたいし。
だが、あの無邪気な顔した悪魔は、そう?と微笑んで言いやがった。
「白木さん、7月に火事騒動があった時、男子寮にお邪魔してたんだってね」
由井てめえあのやろう。
「ま、女子寮にはオートロック掛かってるから仕方ないよね。で、白木さん、その時に協力してくれた人の名前、言える?」
笑顔で人を縛るとは、きっとこんな時に使う言葉なのだろう。
緩くカーブを描く生徒会長の口から、私は目が離せなかった。
「本当は白木さんもその人も、それなりの処置を受けないといけないんだけどね、もし、白木さんが今回のことに協力してくれたら、僕も嬉しくて報告するのを忘れておけるかもしれない」
自分からはその人物の名前を言わないところがいやらしい。
しばらくの無言のあと、私はゆっくりと生徒会長に向かって頷いた。
***
と、いうのが今朝の話。
数時間後、二時間目の休み時間。
休み時間に空き教室に移動して、河内と樹季は適当な椅子に座って向き合った。
呼び出したのは、樹季が高坂のサポートに回ると聞いた河内の方だった。
「何の話かは分かってると思うけど」
そう前置きし、河内は樹季の目を見る。相変わらず、考えの読めない無表情で白木樹季は河内を見返してきた。
「最初に言っておくよ。こちら側へようこそ。協力に感謝する」
「……これはどうもご丁寧に」
慎重に言葉を返してくる樹季に、河内は口元の笑みを深くする。
「あんたがこっち側に付いてくれるとは思ってなかったよ。有難い話ではあるけどさ」
『文化祭を利用した新勢力の結成』、樹季が協力する理由を河内は聞かされていないが、大方生徒会連中に丸め込まれでもしたのだろう。返事は返ってきたがどうも煮え切らない調子だ。
協力はするが、元々仲良くする気も無い。
河内は、樹季の腑に落ちていないような返事には突っ込まないことにして、本題に入る。
「協力関係のよしみで、取引きをしないか?」
「取引き?」
「そう、こんなことをするんだ、多少の乱闘は覚悟しなくちゃならない。勿論あんたもだ」
河内は、椅子に深く座り直し、不遜な態度で樹季を見た。
樹季は困惑する様子も無く、黙って河内の話を聞いている。
「そこでだ。新番長として野郎どもに命じて、この件の間、あんたの身の安全は保障できるようにしてやるよ。条件はひとつ。俺を含めた不良たちと、二度と関わらない」
いい条件だろ?と問いかける河内に、そこで樹季は初めて訝しげな表情を向けた。
「理由が気になるか?」
一拍の間の後、樹季が頷く。
河内は椅子から立ち上がり、向かいに座っていた樹季にぐい、と顔を近付けた。
逃げるように樹季が身を引くが、肩を掴んで止める。