文芸道
□はにかみをあげる
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「……な、なんか感想とか言ってた?」
この際、作者だとばれていたのはどうでもいい。
どうせ由井が調べて、ばらしたのだろう。
それより今は感想だ。
「感想……は、あまり聞かんな。だが、毎回文芸部の小冊子を手に取っておられる」
それだけ聞ければ充分だ。樹季は上機嫌で由井から受け取った箱を握りしめ、教室へ戻ろうと由井に背を向けた。
「―――上の三人は、お前に用があるのではないか?」
後ろからの由井の声に、樹季が振り向くが、すでに由井の姿は裏庭にはない。
上?と思い、樹季は上を見上げる。
視力が悪いのでよく見えないが、屋上のフェンスがガシャン、と鳴ったのは分かった。
***
桶川、後藤、河内がフェンス越しに樹季を見つけてすぐ、樹季と待ち合わせしていた由井が樹季の元に駆け寄っていったのは、屋上にいる三人からはよく見えた。
「あ、抱きついた」
ぽそりと後藤が呟く。
彼に悪気はない。
ただ少し空気が読めないだけだ。
「手紙渡してますね。今時古風な」
すぱんと河内が追い打ちをかける。
彼にも悪気はない。
ただこれを機会に白木が離れてくれないかなーとは、少し、思っている。
桶川が指を掛けているフェンスがキチキチと音を立てて歪んだ。
「あっ、なんか渡された。プレゼントか?」
「あの大きさならネックレスか何かだな」
がしきゃ、という音と主に、フェンスに拳大の穴が開く。
実際、樹季は抱きつかれたときには蛙のような声を上げ、手紙、もとい封筒に入ったSDカードを由井に渡しているときは、呆れたような表情を見せているのだが、屋上からでは遠くて分からなかった。
が、遠目からでも嬉しそうな表情や雰囲気というものは伝わるもので。
文芸の話になって樹季が顔を綻ばせたのを見て、後藤はぱちぱちと目を瞬かせた。
「……うわー、白木の笑った顔初めて見た」
感心したように後藤がそう言うのを聞きながら、河内がすすす、と後藤から離れる。
数年間の付き合いの勘が、今は逃げるべきだ、と告げていた。
「笑うとかわいーっすね、白木」
案の定、空気の読めない後藤が地雷を踏んだ。
桶川の左手が後藤の頭を掴む。
フェンスに何かを叩きつけるような音は、裏庭まで響いた。
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あとがき。
結局新学期まで顔を合わせなかった二人。
まだまだ誤解とすれ違いが続きそうです。