文芸道

□はにかみをあげる
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目的の人物。
程なくして、そいつは輝かんばかりの笑顔で樹季の方へ走ってきた。
めっちゃ速い。怖い。

「白木!!」

由井忍がまさに突進してくる勢いで樹季の方へ向かってくる。
「雅様の賜り物があるというのは本当か!?」

「こ―――」

れ、と言って由井に向かって白い封筒を差し出す。
しかし、あろうことか、由井は走るスピードをそのままに、突進の勢いで樹季に突っ込んできた。

校舎を背にして立っていた樹季が由井と校舎の壁に挟まれ、カエルがつぶれたような声を上げた。
胃が圧迫されて吐き気さえこみ上げてくるが、いい加減三度目ともなれば怒る気も失せる。今回樹季は由井に制裁は与えず、耳を引っ張って自分から引きはがすに留めた。

「……で、これ預かってきました」

「うむ」

何事も無かったかのように封筒を渡す樹季に、同じく何事も無かったかのように封筒を受け取る由井。
ただ由井の顔はきらきらと輝いていたが。


「ドバイ旅行の時の写真、現像の仕方が分からないから行ってきてって」

「承りました雅様」

「私は樹季だけど」


本物の花房が前に居るわけでもないのに、由井は樹季に向かって深々と頭を垂れる。
その昔、天皇の勅令を届けていた伝令は、伝令の言葉は天皇の言葉に同じ、と、天皇同様厚く敬われていたらしいが、そんな感じなんだろうか。



樹季ははーぁ、と面倒臭そうに溜息を吐く。
わざわざ自分に届けさせなくても、生徒会の誰かや、……そもそも自分が教室に赴いて渡すという発想は無かったのだろうか、あのお坊ちゃんは。

生徒会室から出る時、「またよろしく」と言われたので、またパシる気なのだろう。
樹季の表情が暗くなった。



「おおそうだ、白木、これを渡しておこう」

ぽん、と渡されたのは紺色の細長い形をした箱だった。

丁度、眼鏡が入るような。

「サングラスだ。お前も雅様の伝令係として任命されたのだから必要だろう」


「任命ってそれ初耳」


「俺は今やまびこの術を使っているからな、しばらくは必要ない。有難く使え」


「おい聞け忍者馬鹿」


「本当は伝令といえど生徒会に入らなければならないのだがな。雅様はお前の文芸の作品を毎回楽しみにしておられるからなぁ……」


「えっ」

ぽぽんと樹季の表情が明るくなる。樹季も割と馬鹿である。忍者馬鹿と文芸馬鹿のツートップだ。



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