文芸道
□東方邂逅翌日
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大久保と山下が気まずそうに視線を合わす間、最大の原因、舞苑はしれっとした顔のまま樹季の話を聞いていた。
舞苑を睨むように見て、樹季はひとつ溜息を吐く。
「一応、携帯の番号教えて貰えますか」
ジーンズのポケットから携帯を取り出し、樹季は三人に携帯を出すように促す。
「?」
素直に携帯を取り出す三人のうち、一番小柄な少年、山下がなんで?と問う。
「いや、万一体に不調があったら慰謝料とか払って貰うんで」
「……間違いは無かったんだよね?」
「そこの三白眼に一晩中固め技掛けられてた所為で関節から変な音がしてるんですよ。はい、携帯貸して下さい」
携帯を取り出す動作だけで効果音がパキポキペキ、である。
寝違えのように、一日置いて治るならいいが、後々故障が出てきたら洒落にならない。
三人の服装や外見が不良に見えなかった、というのもあるが、なにより自らの保身が先に立って、樹季は改めて携帯を要求した。
「すいません……」
ある意味彼らも巻き込まれた形であるのに、大久保と山下は顔を青くして頭を下げた。
「いいから、携帯」
赤外線でアドレスを送り合い、それぞれが携帯を仕舞ったところで、こんこん、と部屋のドアがノックされる音がテントの向こうから聞こえてきた。
「おまえら、そろそろ起きろ。さっさとペグの跡直せ」
早朝であるため、顰めた声だったが、聞き覚えのある声に、樹季を含めた四人は同時にテントの入り口に目をやる。
その入り口の端が持ち上がり、金髪の、ヤンキー然とした人物が顔を覗かせた。
「早くしないと皆起……き………る……」
その人物は、テントの中に正座をしている樹季を発見して絶句した。
「お早うございます、騒がないで下さいね」
樹季の先手。
金髪の少年、早坂は混乱しながらもいつかのように「はい……」と頷いた。
「早坂君、今何時?」
「五時くらい」
「じゃあ私そろそろ帰るわ」
正座の状態から立ち上がり、ふらふらとテントの外に出る樹季に、早坂が大丈夫か、と声を掛ける。
大丈夫、と言う変わりに樹季は片手を挙げ、部屋を後にした。
***
清々しい朝の空気。
まるで幽霊屋敷から抜け出したような疲労感と安心感を持って、樹季はその空気を吸い込んだ。
が、悪いことというか、トラブルは続くもので。
今日に限って早起きして寮の周りを回っていた桶川と鉢合わせた。
「……お早うございます」
寝起きの上、おそらくクマの浮かんでいる自分の顔を隠すように、樹季はさっと下を向く。