文芸道
□東方邂逅翌日
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翌日。
「……夜這い?」
目を覚まし、樹季が最初に言われた言葉がそれだった。固め技を掛けていた本人にである。初対面だが思いっきりぶん殴ってやりたくなった。
ゆっくり体を起こし、すでに起きていた舞苑の前に正座で座る。
「あなたが、私を、引っ張ってきたんですけどねえ……」
声が震えているのは、怒りもあるが、一晩中寝技を掛けられていた体が痛むためだ。
ギシギシズキズキと、関節や筋肉が半端なく痛い。ついでにいうと、台風の中を歩いてきた舞苑にくっつかれていたため、服が水を吸って気持ち悪い。
流石の樹季も苛立ちが顔に出る。
「そうなの?ごめんね」
「今更爽やかに笑われても……散々貴方の本性は見ましたんで遅いです」
腕を引っ掻き、手の甲を抓り。
肘鉄で相手を攻撃しても返ってくるのは気持ち悪い笑い声と威力を増す固め技。
舞苑がどういう人種なのか、大体の予想を付けた樹季は、早々に抵抗を諦め、意識を手放していた。
抵抗をやめたところで固め技は掛かったままなので夜中に何度も目を覚ましたが。
寝不足も相まってひどい目付きになっている樹季に、舞苑は、あ、そう、と浮かべていた笑顔を消した。
と同時に寝ていた残り二人の体がもぞもぞと動く。
「おはよー」
「あれ、誰?」
遅れて起きた大久保と山下は、不思議そうな表情で樹季を見る。
「夕べ寝惚けた貴方達に連れて来られました一般女子ですお早うございます」
「……え」
寝起きだからか反応は薄いが、大久保と山下の顔にじわじわと冷や汗が浮き上がってくる。
大久保が、おそるおそる樹季に問いかけた。
「その、ま、間違いとか無かったよね?」
「気持ち悪い想像はやめて頂けませんかぶん殴りますよ」
「さあどうぞ」
「貴方は刈り上げますよ」
途中で入ってきた舞苑を押しのけ、樹季は首の後ろを擦りながら、少しだけ眉を顰めた。
樹季にとっては普段の表情と変わらない。
だが、初対面であるため樹季の普段の様子を知らない大久保と山下は申し訳なさそうに俯いた。