文芸道
□東方邂逅
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始まりは、シャツを返そうと思い立ったことからだったのだ。
昼下がり、数日ぶりの幼馴染の電話に出た。
内容は、お友達と仲直りできました、で、熱中症で倒れましたという繋がりの分からない報告で。
熱中症から、帽子の話に飛んで、服装の話に飛んで。
そこで、綾部に服を借りっぱなしだったことを思い出した。
自覚があるのもどうかと思うが、私は人に借りたものを返すのを忘れることが多い。
だから借りたものはお金にしろ物にしろなるだけ早く返すようにしている。
で、コインランドリーに行って、きれいに服を畳んでいると夕方になって。
これでこのまま持って帰ったらまた忘れると思って、家には帰らず寮へ向かった。
で。
「自分、今何時や思っとんのや」
午後九時半です。
「寮に着いたのは」
午後五時ちょうどです。
「今まで何しとった」
……いやあの、四津谷君にね、百物語に誘われてね……
参加はしなかったけど、蝋燭とか借りにいくの、手伝っててね……
その後寮の中で迷子になってね……
「外見てみい」
綾部が指差した先にある窓は、小刻みに揺れ、時折風の通る唸り声を上げていた。
夏の風物詩、台風様のご上陸だ。
風に折れた、大きめの木の枝が窓を叩いていった。
「自分はもっと危機感ちゅーもんを持たんかい」
小言は言えども、泊めてくれる気はないのだろう。
綾部はドアから半身を出した状態から動こうとしない。
と、なると。