文芸道
□夏休みの食事会
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私は5日前、後輩に夏休みの予定を訊かれた時こう答えた。
実家に帰る、と。
当然ながら、私は帰る旨を新しく買った携帯で母に報告した。
『でも7月8月は母さんも父さんも家にいないけど。今都に呼ばれてるの、言ってなかった?』
初耳です。
話を聞けば、母も父も仕事の都合で家を空けいるらしい。兄は他県の大学だ。
ちなみに実家に私が食べるほどの食料はあるか、尋ねてみると、
『置いとくわけないでしょ、夏は痛むし』
相変わらず鬼だ。
……ごもっともだが、どうしてこう、うちの両親は放任主義が過ぎるというか、子供の都合を考慮してくれないのだろう。
薄っぺらい財布の中身を確認し、肩を落としていると、通話口から、駅構内でよくある、列車の到着を知らせる放送の音が聞こえてきた。
プッ、と電話が切れた。今のは電波だ。
……まあ、携帯電話が無かったとはいえ、帰ることを知らせていなかった私も悪いか。
帰省するのは取りやめだ。電車代が勿体無い。
それより、今のところの問題は今月の生活費だ。
再発行して貰った通帳から下ろせば金はあるけども、あまり通帳に頼りすぎる癖を付けたくないんだよなあ、と私は頭を抱えた。
と、いう経緯があったわけで。
ピリリリリリリリリリリリリリ。
『あ、もしもし後藤だけど、白木、明後日空いてる?こないだの奢るって話だけどさ、明後日に皆で昼飯食いに行かない?』
そんな時にこんな電話があれば、乗らないわけが無い訳で。
***
「後藤、あと一人って誰が来るんだよ」
集まっているメンバーの一人にそう聞かれて、後藤がイタズラを仕掛ける子供のような顔で笑っている。
「来れば分かるって」
「今教えろよ」
そんなやりとりを少し離れた位置で見ていた桶川は、大きく息を吐きだす。
がしがしと頭を掻いて、後藤たちに背を向け歩き出した。
「あ、桶川さん!?」