文芸道
□期末・2
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「でも俺、こっちの白木の方が好きだな、面白いし。……不良の頼みでもちゃんと聞いてくれる、いい奴だって分かったし」
へらりと笑う後藤。
「……後藤」
佐伯がふ、とつられたように笑みを零したように見えた。
「お前はそのアメ配ったら数学な」
爽やかな意味を浮かべた数学教師は、後藤の肩を掴み、逃げられないよう固定する。
「白木は数学は壊滅的だもんなあ、代わりに俺がみっちり教えてやるよ」
「待っ、」
助けを求めるように教室の中に視線をやる後藤だったが、誰も目を合わせようとしない。
自分、今別教科を勉強中なので。と言いたげに、わざとらしく大きな音を立ててシャーペンを走らせている。
「おら、さっさとアメ配ってこい」
魔王に首輪を付けられた後藤は、恨めしそうな目で同級生を睨みつけた。
***
そしてテスト返却日。
後藤に連れられ、樹季は勉強会に使った空き教室に向かった。
「ど……どうだった……?」
勉強会に参加したメンバー、その中でも夏休みを補習で潰せない者、部活動関係で絶対赤点回避などを命じられた者が集まり、神妙な顔で返却されたテスト用紙を囲んでいる。
やるだけのことはやった、だから結果がどうでも悔いはない、と自分の心に保険をかけつつ、一斉にテスト用紙を開く。
一瞬の静寂。
「う」
誰かが漏らした声が小さく響いた瞬間、それを皮切りに、教室が爆発せんばかりの叫び声が廊下の窓を揺らした。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――!!」
「いやったああああ!!赤点回避―――っ!」
「60点越えだ!初めてとった!!」
互いに抱き合って、喜びを噛みしめる不良たちに釣られて、樹季と後藤も手を取り合ってぱあっと笑い合った。
今回の二年四組のテストの結果は、ほとんどが50点から60点の間を取った者ばかりだ。
たまに苦手教科で30点台を取る者もいたが、ギリギリ赤点は回避している。
教えた側の樹季も、教えながら勉強したようなものなので、苦手な数学を含め、平均点は75点だ。
「よかった……疲れた……」
ありがとうありがとうと肩や背中を叩きに来る不良たちにもみくちゃにされながら、樹季はほうっと息を吐いた。
「千円分じゃ足りなかったな」
苦笑しながら後藤が言う。
「帰り、テスト終了記念になんか食べに行こうぜ。白木には俺が奢ってやるよ」
「え、ほんと……」
食費が浮く、と喜びかけた樹季の表情が固まる。
……いつの間にか、これ、不良の一員になってないか?
品行の話ではなく、グループの意味で。
そりゃあ、桶川の件もあるから少しずつでも不良のことも知っていこうとは思っていた。
……が、これはいささかランクアップしすぎではないだろうか。
まずい。非常にまずい。
「あ、の、悪いし私は……」
いいよ、という声は、尻すぼみになって消える。
テスト勉強中はハイテンションスイッチを入れていたので気にならなかった。
だが冷静になってみれば、白木は所詮一般女子生徒だ。
「私は、」
∇ 諦めて同伴する
∇ あくまで強気で断る
∇ お茶を濁す ←
「わ、私、用事があるから……」
やはり尻すぼみ気味な声でなんとかそう伝え、不良の輪の中から抜け出す。
別に皆が嫌いという訳ではないが、あまり仲良くなりすぎるのはよろしくない。
後方から、えー、と拗ねたような声が聞こえたが、白木は振り返らずに空き教室を出た。
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あとがき。
河内はこの成績公開会に参加してない。
桶川さんが弛んだのは夢主の所為でもあると思ってる。