文芸道
□期末
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テスト前10分間の暗記法で赤点はゼロ。
頭がいい、とまでいかなくても覚え方のコツを知っている樹季は、テストを乗り越えるための教師としては適任だと後藤は言う。
「いや、だって、」
樹季はちらりと机に座っている面々を見た。
不良というだけあって目付きも悪ければガラも悪い。これで赤点を取らせようものならお前のせいだといちゃもんをつけられそうだ。
「頼むっ!!」
……しかし、今まで数々のテスト危機を救ってくれた後藤の頼みだ。
「……期待はしないでね」
そう前置きして、樹季は教科書を持った。
***
いくつか菓子類やジュースを買いこんだ後藤は売店を出る。
丁度見回りの途中だった数学教師、佐伯と鉢合わせた。
「げっ」
先日の補習で散々なスパルタ授業を受けたためだろうか、勝手に体が拒否反応を起こして仰け反った。
「なーにが『げっ』だ」
佐伯は持っていた指し棒で後藤を軽く小突く。
「また菓子ばっか買いやがって。テスト前なんだから勉強しろ。四組は今回赤点取ったら留年に片足突っ込む奴が多いだろうが」
「してる!してるよ、これ差し入れ!」
佐伯が伸ばしてきた手から菓子の袋を守るように逃げて、後藤は叫ぶように言った。
「白木が結構教えるの上手いから、四組じゃないやつらも集まってきたけど」
「白木?」
佐伯が一瞬不審そうな顔をする。
白木樹季と言えば成績は中の下、無愛想無感情無感動、唯一感情らしい感情を見せるのは文芸部の締め切り前後くらいといった、能力的にも性格的にも教える側には向かないタイプだ。
「それが、やっぱ文型だからかな、面白いゴロ合わせとか沢山知っててさ。漢字の覚え方とかもポイント押さえて教えてくれるから分かりやすくて」
「ほー」
後藤の話に頷きながら、佐伯は後藤に付いて四組へと向かう。
普段無口な白木樹季がどんな教え方をしているのか気になったらしい。
「あ、ほら、やってるやってる」
「めざまし時計は!?」
「「「気に喰わない!!」」」
「売る箸は!?」
「「「きちんとしている!!」」」
「三郎さんは!」
「「「お仕え申し上げるでありますございます!」」」
「今お与えになるっつったの誰だ!お与えになるのはたまちゃん!!」
「……なんだあれ」
「古文単語の暗記。インパクトあるだろ」
上から、めざまし(気に喰わない)、うるはし(きちんとしている)、候ふ(お仕え申し上げる・あります・ございます)だ。
ちなみに「給ふ」はお与えになる、である。
「いや、それは分かるが、白木だよ」
普段は大人しい生徒である樹季が、医者が見たら首を横に振るレベルのハイテンションモードである。
そんな樹季がゴロ合わせを言い、それを不良たちが復唱する姿は、本人たちは真剣でも、見ている方は怪しい宗教活動を見ているようで怖かった。
「最初のうちは白木も通常運転だったんだけど、あまりに皆の覚えが悪いからテンション上げていくって」
「あれ切り替え可能なのかよ」
佐伯がぼそりと呟く。
後藤だって数時間前に樹季の素の調子を知ったばかりだ。
何を言えるはずもなく、後藤は歯切れ悪く頷くことしかできなかった。
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あとがき。
テンション上げてくというか、腹括って厳しくやっていく感じ。
あくまでインパクト重視の短期記憶指導なのできっと身にはなってない。
夢主が怒鳴りながらミスにツッコミを入れるのも、インパクトを強くして覚えやすくするため。
この方法、友達とテスト直前にやるとけっこう覚えてる。