文芸道

□期末
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なんともお得な特技だよなあ。


あくまで赤点にならない程度だけだが、後藤が出ると言った問題は必ず出る。

最初の内はテスト問題の情報漏洩があるんじゃないかと疑ったりもしたが、それは彼の全国模試の結果を見た時に、ないな、と思った。

鉛筆を転がしただけという彼のテスト結果は、国語182点、数学180点、英語192点という、思わず殴りたくなるものだったのだ。

彼は立派な不良だが、進学先も就職先もそれほど苦労することは無いだろう。
センター試験とSPIは彼の前では意味の無い物だから。




なんだか語っていてむかっ腹が立ってくるが、今この瞬間だけは後藤様様だ。



後藤が言ったページ数をノートに書き写し、私は帰る準備をする。


鞄を持って、教室を出ようとしたところで後藤の横に座っていた不良Aに呼び止められた。



「お前、後藤のヤマ聞いたろ。五百円払えよ」



振り向けば、後藤の机の上には積み上げられた五百円。後藤のヤマに頼る不良たちの貢物だ。



「いや、前回の実力テストの時もこっそり聞いてた。千円だ」



おい、いらんこと言うな不良B。



聞かれたくなきゃ空き教室にでも行ってからヤマ当てしろ、と言いたいのだけれど、私は所詮文化系の一般ピープルだ。


殴られるよりはハードカバー一冊分くらい我慢した方がいい、と思い、鞄から財布を取り出した。





「あ、いいよ白木は」





ぱちんとガマ口を開いたところで、後藤が手を振って私の動きを制する。



「金はいいからさ、ひとつ頼みごと聞いてくれないかな」



後藤は人懐っこそうな、というか地顔が人好きする顔なのだろう、とにかく明るい表情を私に向けた。


「駄目かな?」


ただ、彼の瞳がこちらを探るように光っていたのが気になった。







***







「……というわけで、簡易教師になりました白木樹季です、よろしく……」


「「「よろしくー」」」


空き教室。


机に座る不良たち。


小学生のテンション。




「……後藤くーん」



「ん?」



「今すぐ千円払って帰っちゃダメかな……」



「そんなこと言わないでくれよ、こいつら今回絶対赤点取れないんだって」



机に座っているのは金髪茶髪、柄シャツにアクセサリーと実に目に痛い恰好をした面々だ。


後藤曰く、この面子は後藤の運をもってしても赤点回避ができない者の集まり、しかも今回点を取らなくては部活動に支障が出る、親がそろそろブチ切れるといった、切羽詰っている状況らしい。


「数学・物理は河内と俺でなんとかするからさ」




国語は得意中の得意分野。歴史や生物などの暗記系はそこそこ。



それが樹季が目を付けられる理由になったらしい。



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