文芸道
□カラメルカラーの憂鬱・2
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女装が上手い男子にしろ、力持ちな女子にしろすごいよな、と思いながら黒崎さんを見ていると、緩んだ顔でにこーっと微笑まれる。
本当に上機嫌だな。
***
樹季が靴を履きながら、上機嫌な理由を聞いてみると、真冬はもじもじと指を絡ませながらへへ、と笑った。
「あ、あの、私実はある人と文通してるんですよねー」
「あ、忘れてた。言っておくけど、私イチゴラブさんじゃないから」
「えっ!?」
やっぱり勘違いされていた。
期待していたらしい真冬をがっかりさせるのは心が痛むが、このまま誤解されるのも後々面倒になりそうなので、ハトは時々遊びに来るだけだと説明した。
「なんだあ」
落ち込むかと思いきや、真冬はすぐに笑顔に戻り、白木さんの家ってどっちの方ですか?と尋ねる。
その立ち直りの早さには目を見張るものがあった。
「森から出てすぐ。……黒崎さん、元気だね」
「へへ、実は、一大決心をしまして」
「はあ」
「私、子供のころからずっとずっと、憧れてる人が居るんですよね」
憧れ、という単語に樹季の肩がぴくりと反応する。
「自分勝手だし、乱暴だし、人使い荒いしパシるし乱暴だし俺様だけど、憧れてるんです」
「(乱暴2回言った……)」
「その人が頑張ってしようとしてることを、今日やっと教えて貰ったんです」
照れと喜びを混ぜたような声で、真冬は嬉しそうに「その人」について語った。
詳しいことは話さないが、話す調子だけで真冬が「その人」に抱いている気持ちは伝わってきた。
「これからの高校生活、本格的に巻き込まれてやろう、って思いまして」
巻き込まれて、とは言っているが、真冬の目は道を選んだ者のそれだ。
きっと、その選択に後悔をすることはないのだろう。
「……よかったね」
「はい!」
清々しいくらい素直な反応が返ってきた。
こんな子なら巻き込みたくもなるよなあ。
そう思いつつ、樹季はへらへらと笑う後輩の頭を撫でた。
やはり中学生男子のような調子で、真冬ががちっと固まる。
「あ、あああ、あの!あの!?」
「……黒崎さん、やっぱり荷物返して」
ぐるぐると目を回す真冬の頭から手を離す。
荷物を受け取る為に手を伸ばせば、どうして、ととぎれとぎれに尋ねられた。
「寄りたいところができたから」
***
こんこんっ
ひかえめなノックの音に気付き、桶川が部屋のドアを開ける。
大荷物を抱えた樹季が立っていた。
荷物を抱えて階段を登ってきたためか、ぜえぜえと肩で息をしている。
どうしたのか聞く前に、樹季が手にしていたスーパーの袋を持ち上げる。
「先輩、プリン食べます?」
「……食う」