文芸道

□カラメルカラーの憂鬱
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「技ってなお危険じゃん」

「忍者が獲物に技を掛けて何が悪い!」

「世間体が悪いわこのロイヤルストレート馬鹿」



……どこが温厚な性格だ、と由井は街に降りていく樹季に付いていきながらひとりごちた。

辛辣とは言わないまでも、冷たい一言一言に、無表情ではあるが、眉を顰めて不快感を隠そうとしない態度。心が折れそうだ。



「ていうか由井君、どうして付いてきてるの」

「お前が引っ張ったんじゃないか!!」

「……いや、ここまで連れてくる気は欠片もなかったんだけどな」


はー、とこれ見よがしに溜息を吐き、樹季は由井に向かってしっしっ、と手を振った。


「私の方は用は無いから帰っていいよ」

「のけ者にするな!!あと帰ってもすることがないんだよ!風紀部解散しちゃったから!!ひとりぼっちなんだよ!」

「……」


もはや受け答えさえしなくなった樹季に、由井はなおも騒ぎながら付いていく。

そのうち、騒がせておくと厄介だと判断した樹季が折れた。


「付いて来るなら荷物持ちしてよ」


しつこくぶつぶつ言っている由井の口を掌で叩き、樹季は電気屋へ向かった。






***






そして一時間後。



喫茶店のテーブルに突っ伏した由井は、恨めしそうな声を出してかりかりとテーブルを引っ掻いた。





「……下着屋に行くなんて聞いてない」





「服買いに行くって言ったのに」

「服って普通の服だと思うだろ!」




がばっと身を起こし、由井は樹季を睨み付けた。


視界がひどくぼやけているのは、きっと涙のせいでなくさっき眼鏡を落としたせいだ。





「普通下着買うのに男を同伴させるか!?待ってる間すっごく気まずかったんだぞ!」





ばんばんとテーブルを叩いて訴える由井。


喫茶店内で騒いでいるため、ものすごく迷惑なのだが、下着店の前で、誤解した女性に通報されかかった身としては、原因を作った樹季に物申さないと気が済まない。


「由井君が大人しく待ってないで、こっちを覗きに来てたからでしょ」


外で待っててって言ったのに、と言いながら、樹季は由井にメニューを差し出してきた。



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