文芸道
□スノウの正体・2
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「……なんで追ってきた」
「?鞄を届けに」
あっけらかんと答える樹季に、桶川はごろりと背を向けた。
「今はお前の顔見たくねえ、帰れ」
「帰りませんよ!っていうか、私誤解を解きにきたんです!そうでしたそれが目的でした!」
「うるせえスケコマシ」
ゆさゆさと樹季が桶川の体を揺さぶるが、桶川は樹季に顔を見せなかった。
「いや、それも違いますって、聞いて下さいってば!あれは由井君がいきなり、うっ」
いきなり途切れた声に、桶川は少しだけ横目で樹季の様子を伺う。
樹季の頭の上に、ハトが乗っていた。
「トリ吉……」
追ってきたのか。
「……トリ吉?」
桶川の言葉を反復し、樹季は、はっと目を見開いておそるおそる桶川に問いかけた。
「……そういえば、先輩『イチゴラブ』さん、ですよね、文通の」
「……ああ。お前は、」
桶川は意を決して起き上がり、樹季に同じ問いをしようと樹季に振り返った。
が。
樹季は、桶川に背を向けて寝転がっていた。
丁度、さっきの桶川がしていたように。
訳が分からず、桶川はおずおずと樹季の肩を揺する。樹季の肩はふるふると小刻みに揺れていた。
泣いているわけではなさそうだ。むしろ、こみ上げてくる笑いを必死に堪えているような。
「お、おい……」
「すいませ、いま、今何か言われたら笑い死にます」
ダンゴムシのようなポーズでぷるぷると震え、口と腹を押さえている樹季の意図が分からず、桶川は混乱したまま、樹季を仰向かせた。
涙を目に浮かべた樹季と目が合う。
「ぶはっ」
目が合ったのがきっかけになったのか、樹季ははじけたように腹を抱えて笑い出した。
「い、今、いま気付いたけど、ボ……ボインちゃん……!せん、先輩がイチゴラブさんてことは、ボ、書いたの、先輩ですか!ふは、あはははは、し、死語、死語だし、あれだし、げほっ、意外過ぎる……っ!」
大いに咽ながらひいひいと息をする樹季。
桶川はそんな樹季を起き上がらせ、怒鳴るように言った。
「お……お前だって同じテンションだったじゃねーか!スノウだろ!?」
「ちょ、ちょ、たん、ま、ちが、っふふふ、」
何かを伝えたいのか、樹季は桶川のシャツを掴みながら首を振っているが、笑い声で殆ど聞こえない。
いつのまにか地面に降り立っていたハトがくっくー、と鳴いていた。