文芸道

□スノウの正体・2
2ページ/3ページ



「……なんで追ってきた」

「?鞄を届けに」




あっけらかんと答える樹季に、桶川はごろりと背を向けた。

「今はお前の顔見たくねえ、帰れ」

「帰りませんよ!っていうか、私誤解を解きにきたんです!そうでしたそれが目的でした!」

「うるせえスケコマシ」


ゆさゆさと樹季が桶川の体を揺さぶるが、桶川は樹季に顔を見せなかった。


「いや、それも違いますって、聞いて下さいってば!あれは由井君がいきなり、うっ


いきなり途切れた声に、桶川は少しだけ横目で樹季の様子を伺う。


樹季の頭の上に、ハトが乗っていた。



「トリ吉……」


追ってきたのか。


「……トリ吉?」


桶川の言葉を反復し、樹季は、はっと目を見開いておそるおそる桶川に問いかけた。


「……そういえば、先輩『イチゴラブ』さん、ですよね、文通の」


「……ああ。お前は、」



桶川は意を決して起き上がり、樹季に同じ問いをしようと樹季に振り返った。

が。






樹季は、桶川に背を向けて寝転がっていた。

丁度、さっきの桶川がしていたように。



訳が分からず、桶川はおずおずと樹季の肩を揺する。樹季の肩はふるふると小刻みに揺れていた。


泣いているわけではなさそうだ。むしろ、こみ上げてくる笑いを必死に堪えているような。


「お、おい……」

「すいませ、いま、今何か言われたら笑い死にます」


ダンゴムシのようなポーズでぷるぷると震え、口と腹を押さえている樹季の意図が分からず、桶川は混乱したまま、樹季を仰向かせた。


涙を目に浮かべた樹季と目が合う。




「ぶはっ」

目が合ったのがきっかけになったのか、樹季ははじけたように腹を抱えて笑い出した。



「い、今、いま気付いたけど、ボ……ボインちゃん……!せん、先輩がイチゴラブさんてことは、ボ、書いたの、先輩ですか!ふは、あはははは、し、死語、死語だし、あれだし、げほっ、意外過ぎる……っ!」

大いに咽ながらひいひいと息をする樹季。

桶川はそんな樹季を起き上がらせ、怒鳴るように言った。



「お……お前だって同じテンションだったじゃねーか!スノウだろ!?」



「ちょ、ちょ、たん、ま、ちが、っふふふ、」





何かを伝えたいのか、樹季は桶川のシャツを掴みながら首を振っているが、笑い声で殆ど聞こえない。




いつのまにか地面に降り立っていたハトがくっくー、と鳴いていた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ