文芸道
□スノウの正体
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離れろと言っても由井が離れる様子は無い。
根負けした樹季は由井を腰にくっつけたまま、落としたノートを拾った。
「そんな騒がなくても待ってれば戻ってくるでしょ。子供じゃないんだから」
「ほ、本当か」
「むしろ入れ違いになっちゃうから待っとかないと」
面倒臭そうに頷く樹季の言葉に安心したようだ。
ようやく由井は、樹季の腰に回していた腕を解い
どさっ
腕を解ききる前に、近くで何かが落ちる音がした。
樹季と由井が音の方を見ると、廊下の曲がり角のところで、呆然自失を絵に描いたような表情をした緑ヶ丘学園元番長が立っていた。
足元には彼の鞄。音の正体はこれだったらしい。
「あの、せんぱ……」
「す、」
「すけこましじゃないです。誤解です」
「す、の」
「すの?」
樹季が少し首を傾げると同時に、樹季の肩に止まっていたハトが羽ばたいて、彼の肩に止まる。
ハトの存在を思い出し、樹季はようやく桶川ことイチゴラブが何を誤解しているのかに気付いた。
「せ、先輩、多分色々誤解してます、私は」
樹季が弁解する間もなく、桶川はぐるんっと樹季に背を向けた。
そのまま桶川は廊下を走り去る。
近くの教室の扉が桶川の拳に当たって大破した。
「先輩鞄鞄!!鞄忘れてる!」
相変わらずズレた引き留め方をしながら、樹季はまだ腰に回っていた由井の手を振り払い、桶川の落とした鞄を拾い上げてから桶川の後を追う。
「……」
ぽつんと残された由井は、一人寂しく部室に戻り、部員の帰りを待つことにした。
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あとがき。
文芸関係で貶されると声が低くなる夢主。
けど基本的に教師と先輩相手には普段から礼儀正しいのであまり角は立たない。