文芸道
□スノウの正体
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当然ながら、別に好きで乗せているわけじゃない。
今朝このハトがいきなり私の頭に着地してきたのだ。
なんか器用にバランスとられてるし、降ろしてもすぐ乗っかってくるし。
私だって困っているというのに、そんな絶対零度の目を向けられるなんて心外だ。
「マイブームってな、後から思い返すと黒歴史になることが多いんだぞ」
頭にハト乗っけるマイブームがあってたまるか。
反論する前に、切り替えの早い先生はさっさと授業の準備に入ってしまった。
佐伯先生は服装には緩いが授業態度には厳しい。
諦めて、私もハトを頭に乗せたまま教科書を開いた。
***
「白木、最近大変なお前に言うのもなんなんだが、趣味と友人は選べよ」
放課後。
ハトの件ではなく、授業についての質問に行った樹季に、佐伯鷹臣は開口一番にこう言った。
「……趣味じゃないです」
樹季の頭から肩に移動したハトは、人間たちの会話など気にも留めずにぼけっとしている。
「いや、頭に乗っけてたことじゃなくてだな。文通の方」
「はい?」
「お前、文芸部なのにあの文章はねえよ」
「あ?」
「あと『ボインちゃん』は古い」
「なんでハトの話から文芸の話に飛んであまつさえセクハラ発言になったんですか」
職員室でなく数学研究室だから良かったが、言質でもとられたら、たちまち首が飛びそうな単語に樹季は顔を顰める。
ハトの飼い主が誰かは知っているが、その飼い主が『ボインちゃん』の単語を手紙に書いていた頃は、まだその飼い主に興味を持っていなかったため、手紙の内容の話だと気付かない。
樹季は佐伯の意図が分からず、眉を顰めた。
その様子を見て、佐伯は首を傾げる。
「お前、『イチゴラブ』じゃねえの?」
「はあ?」
思わず低い声が漏れてしまい、樹季はすぐに失礼、と佐伯に謝った。
「お前じゃないのか」
「……もしかして、『イチゴラブ』さんが書いてたんですか、ボインちゃんて」
「聞きたいか?」
そういって、佐伯がにやりと笑った時――
「鷹臣くん!!」
バンッと数学研究室の扉が開き、転がるような勢いで誰かが駆け込んできた。
「ちょっと聞きたいことが、って白木さん!?とジョセフィーヌ!?」
誰だ。
駆け込んできたのは黒崎真冬だと分かるが、ジョセフィーヌって誰だ。
呆然としている樹季に、真冬はハトと樹季を見比べ、まとまらない言葉を投げる。