文芸道

□誤解を解きましょう
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随分と気障ったらしいセリフを吐いた樹季だったが、要は小説書きたいんでモデルの許可ください、ということである。


色気もなにもない、自分の趣味について語っているだけのもの。
それゆえに樹季の表情は輝いていた。

一瞬、桶川はその表情に目を奪われる。

勘違いだと分かっていても、恋愛ごととは全く関係ない、別の話だと分かっていても、一瞬揺らいでしまいそうな程、樹季の表情は真剣で頼もしいものだった。



だがすぐに、少し屈めば額と額がぶつかりそうな位置に互いの顔が近付いていることに気付き、今度こそ桶川は思いっきり身を引いた。

「あっ」

握っていた手も離れ、樹季が小さく声を上げるがそれを気にしている余裕もない。





「す」





ぼそ、と桶川の口から掠れた声が出た。


「す?」

「この、スケコマシがあああああああ!!」

「はいィ!?」


わけのわからないまま罵りの言葉を受け、樹季が目を剥く。

「先輩、どういう、」


意味ですか、と問われる前に、桶川は走ってその場から逃亡する。今度はボールを踏まなかった。




「スケコマシは男性にしか使いませんよーー!」

少しズレた主張をする樹季の叫びにも耳を貸さず、桶川はただひたすら走る。








なにかが始まった瞬間だった。










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あとがき。

番長に名前を憶えられていない綾部。

夢主に名前を聞かれていない早坂。





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