文芸道
□登校日
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また配達の途中で寄り道に来たのか。
イチゴラブの方の正体、というかこのハトの飼い主の正体は知っているが、スノウの方は知らない。誰なんだろう、と思いつつ、私は便箋を開けた。
『ボンジュール☆イチゴラブ様』
フランス人か。
『女生徒たちの半袖が目に眩しい季節到来!!』
こんなオッサン視点の時候の挨拶初めて見た。
『私は先日スクール内にて人さらいに遭っちゃいました☆テヘ!』
人さらいになぜ照れる。
『でも心配御無用!!!私には愛と希望とアンゴラ混じりの翼があるから!!!』
そりゃ愛と勇気が友達のアソパソマソもびっくりだ。
『空高く舞い上がって脱出成功☆』
それ人生から脱出してる。
『そんな平凡な日々です 学園アイドル目指してツーステップを練習したいです』
ツーステップ必須かよ。
『PS. ちんげん菜は茨城の権田福介氏に一任しています。』
フランス人なのに国産派。
全部読み終わり、私はそっと手紙を便箋に戻した。
……うん、ツッコミが間に合わない。
見ておいてなんだが、これは私に渡されても困るよ、とハトに言って、手紙を咥えさせる。
ハトはまた私の言葉を理解したのか、窓から外の方へ飛んで行った。
***
昼休み。
校長室や理事長室、銀行に学校指定のアパート。
ちょろちょろと災害支援の書類や入居許可の書類を提出するために走り回って、疲れた樹季が外の水道で顔を洗っていると、隣の水道に人が立つ気配を感じた。
ちらりと見えた制服がスカートだったので、樹季は隣の人物に声を掛けることにする。
「すいません、タオル持ってません?」
「えっハイ私!?すすすすすいません持ってないです!!」
随分テンパった返事を返した隣の人物に、そうですか、と返し、樹季は着ているTシャツの裾で顔を拭いた。
ちなみにTシャツもズボンも綾部からの借り物だが、どうせ洗って返すからいいや、と開き直っている。
「ああ、そんな!腹チラ!!腹チラしてますよもったいないっ」
「勿体無いって……」
減るもんじゃなし、と呟きながら顔の水滴を拭った樹季が顔を上げる。隣に立った人物を見て、言葉が途中で途切れた。
髪型が縦ロールだ。
そして、頭に城?が乗っていた。
そしてそして、番長と一緒だったゲームセンターの男(誤解)だ。
白木樹季と黒崎真冬が初めてまともに顔を合わせた瞬間である。
先に動いたのは、一方的に相手の事を知っていた樹季だった。
「っ、あの!!」
「はいっ!?」
がしっと真冬の手を掴み、樹季は相手の目を見つめる。