文芸道
□発見・2
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綾部から部屋割り表を渡されて数分後。
白木樹季は桶川恭太郎の部屋でDVD観賞をしていた。
どうしてこうなった、と聞かれれば、タイミング悪く、出掛けていた桶川が帰宅した時間に訪問したため、鍵を開けている彼とばっちり鉢合わせしてしまったからに他ならない。
更に言えば、桶川が持っているビニール袋から見覚えのある猫のキャラクターがちらりと見えて、思わず凝視してしまい、そこから会話に発展して今に至ってしまっている。
で。
『ネコマタさーん!ネコマタさーん!!』
「やっぱいいなネコマタさん……」
思っていたのとなんか違った。
前方にはやけに渋い声でしゃべる、シュールな絵柄の猫。
横にはその猫に感動して涙ぐむ緑ヶ丘学園元番長。
両方思っていたのとなんか違った。
心情としては、ラーメンだと思って食べたものがソバの味だった感じだろうか。
害はないが、消化不良。釈然としない。なんか騙された感がある。
そりゃあ、勝手に勘違いする方が悪い、とはいうけれど。
『おめえらの気持ち、確かに背負ったぜ……!』
「……」
まあ、男気(口調)と可愛さ?(見た目)を兼ね備えたキャラもアリといえばアリ、か?
画面に大きく映るネコマタさんをしばらく見た後、樹季は並んで座る桶川にちらりと視線をやる。
胡坐をかいてやや前のめりになり、両目に涙を浮かべている元番長がそこにいた。
「うう……」
……まあ、キャラクターとしてはアリ、だろう。これはこれで。
基本的に自分の作品制作のことしか考えていない樹季は、この状況をネタのひとつとして楽しむことにした。
とはいっても、映像の内容に関心があるわけではないのですぐ視線は横に逸れる。
近くの棚に、他のものと比べて、ぼろぼろのぬいぐるみが置いてあった。
「(ゲームセンターの前で彼女さんが持ってたやつだ)」
仲良く手を繋いで逃げる姿を目撃していたため、勝手にあの時の少女を彼女だと認定しているが、彼女こそ桶川恭太郎を殴り飛ばした現番長の正体であることを樹季は知らない。
ちなみにその少女・黒崎真冬も樹季の小説の中で彼女役として勝手に出演させている。
もしかしてこの猫グッズは彼女さんの趣味だったりして、と思いながら桶川を見ると。
「よし、特典見よう」
前言撤回。
間違いなく本人の趣味である。
桶川がリモコンを操作しているのを観察しながら、樹季はなんとなく、自分から話題を振ってみようかと桶川のシャツの袖を引いた。
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あとがき。
劇場版のDVDは13巻で出てきてたから、きっとこのDVDはアニメ総集編か何か。
番長は夢主のことを中学生だと思ってる。
夢主は番長のことをいいモデルだと思ってる。
気持ちが変化し始めるのは学校始まってから。